INCLUSIVE DESIGN Talk|コクヨ株式会社 藤木武史

INCLUSIVE DESIGN Talk コクヨ株式会社 藤木 With Userのモノづくり

インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKS タキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回はコクヨ株式会社 エキスパートの藤木武史さんにお越しいただきました。インクルーシブデザインのプロセスを取り入れた商品開発や、リードユーザーとの関わり方について伺いました。

 

With User のモノづくり

 

多様な「HOW?」を大切にした、コクヨのHOWS DESIGN

 

タキザワ:まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

藤木:コクヨ株式会社でデザイン関連の活動をしています、藤木と申します。金沢美術工芸大学でユニバーサルデザインをはじめとしたプロダクトデザインを学び、プロダクトデザイナーとしてコクヨに新卒入社しました。15年ほど家具の開発に取り組み、直近5年はステーショナリーの開発に携わっています。

タキザワ:これまでどんな商品開発に携わられたのでしょうか?

藤木:アクセサリーのようにアイテムの組み合わせを楽しめる新ブランド「KOKUYO ME」シリーズでは、コクヨのステーショナリーをもっと幅広い方に使っていただくことを目指し、商品ディレクションを担当しました。ほかにも、高級筆記具ブランド「KOKUYO WP」では、手書きそのものに喜びを感じ、創造性をかき立てるような筆記具を作ろうと、みんなで協力して開発しました。

 

 

タキザワ:すでにご存知の方が多いとは思いますが、コクヨさんがどんな会社か、簡単に教えてください。

藤木:コクヨは1905年に創業し、和式帳簿の表紙から事業をスタートしました。1960年にはオフィス家具に進出し、2001年にはオフィス用品通販「カウネット」を開設するなど、徐々に事業を拡大してきました。おかげさまで2025年に120年を迎え、「お客様にもう一歩先の未来を届けよう」「一人ひとりのワクワクをつくろう」と、さまざまな取り組みを始めています。

 

 

藤木:その一つが、循環型社会への貢献です。環境学習プログラム「つなげるーぱ!」では、小学3・4・5年生を対象に、紙資源の循環について学べる出張授業を実施しています。さらに、子どもたちが使い終わって不要になったノートを回収してリサイクルし、新しいノートの原料の一部として再利用する活動にも取り組んでいます。ほかにも、メーカーとして材料を有効活用するだけでなく、資源の循環を前提とするモノ・コトづくりを推進する指針として「SUTENAI CIRCLE」を掲げています。

 

 

タキザワ:コクヨさんは、以前からインクルーシブデザインにも取り組まれていますね。

藤木:はい。コクヨのインクルーシブデザイン「HOWS DESIGN」では、ウェルビーイングな社会の創出を目的に、インクルーシブデザインを取り入れた商品開発に取り組んでいます。HOWS DESIGNは、「最近どう?」と相手を思いやる気持ちや、「この商品はどう思う?」といった、多様な「HOW?」を大切にしたデザインアプローチで、以下の4つのプロセスをたどります。

 

 

これらのプロセスから生まれたプロダクトやサービスには、以下の基準に従って「HOWS DESIGN」マークを付与しています。

  • 企画段階から、多様なリードユーザーが参加している
  • 多様性から気づきを得て、解決方法を提示している
  • 具体的な試作品を通してリードユーザーと対話を重ね、ブラッシュアップしている
  • より良い体験をユーザーに届けられるよう、社会のバリアを解消するための工夫をしている

また、2023年にはHOWS DESIGNを実践する場として、「HOWS PARK」という拠点もつくりました。

 

 

藤木:コクヨグループには、障害のある方が多く活躍する特例子会社「コクヨKハート株式会社」があります。HOWS PARKでは、同社の社員とともにインクルーシブな商品づくりを進めています。HOWS PARKをつくる際にも、アンケートや意見収集、働く現場の観察など、障害のある方々の協力を得ながら完成させました。

 

 

藤木:コクヨは2030年までに、新商品の50%をHOWS DESIGNのプロセスを経て開発することを目標に掲げています。すでにオフィス家具やステーショナリー、通販向けの商品開発でインクルーシブデザインを推進しているほか、最近では利き手を問わず切れるはさみ「サクサ」や、持ちやすさ・開けやすさに配慮したペットボトルなど、多岐にわたる商品が生まれつつあります。

タキザワ:社内にインクルーシブデザインを浸透させていくために、このようなガイドラインをつくることは有効ですね。HOWS DESIGNのプロセスを経て生まれた商品について教えてください。

藤木: 2025年にリリースした「秒でパッと開けられるバインダー」は、一か所をつまむだけで、すべてのリングを“秒でパッと”開けられます。リングも大きく、紙の出し入れがしやすいです。また、バインダーの見出しシートの色も、視覚障害のある方が見ても判別しやすいように設計しました。
商品開発に向けたワークショップでは、大阪にあるHOWS PARKの1階に、車椅子の方、杖を使っている方、麻痺のある方など、様々な障害のある方に集まっていただき、バインダーを使った感想を伺いました。「他社製品は開けやすいけれど、これは開け方がわからない」「使い方がわからない」といったご意見をもとに、簡単なプロトタイプを作成。2回目のワークショップでもう一度試していただきました。すると、「握力がなくても閉じやすい形にしたらどうか」「リングを左右で色分けすると視認性が上がるのではないか」といったアイデアが出て、何種類もの試作を繰り返しました。

 

 

  

コクヨの商品を、より多くの方に使ってもらう工夫

 

タキザワ: コクヨさんは、日常的に使われている商品をリードユーザーとともに改善しつつ、「障害」を前面に出してPRすることなくリリースされています。企業によっては、インクルーシブデザインのプロジェクトや商品を発表する際に「障害のある方と一緒に作りました」とPRするケースが多いと思います。ただ、それは障害のない方にも役に立つ商品だとしても、ニュースを見たときに“自分事”として捉えにくくなります。結果としてターゲットを狭めてしまい、思うように販売が伸びないというジレンマにぶつかるケースも多い中で、コクヨさんはうまく社会に導入されていると感じます。

藤木:そこは難しい問題ですね。真ん中に映っているはさみは、左利きでも使えることが特徴です。当初は「左利きでも使えるはさみ」といったネーミングを考えていたのですが、営業から猛烈な反対がありまして。

 

 

藤木:左利きは10人に1人くらいと言われていますが、その中でも左利き用のはさみを使っている人はごく少数なんです。なのに「左利きでも使えるはさみ」と言ったら売れない、と。そこで、とある大学にご協力いただき、2日間だけ購買部に「コクヨのはさみ」というネーミングの商品を置かせていただきました。カメラで観察しながら、商品を選んだ瞬間に歩み寄って話を聞き、「なぜ買おうと思ったのか」「買わなかったとしたら、どんな考えだったのか」を丁寧にリサーチしました。
社内でも「このネーミングは何を言っているかよくわからない」「コクヨ製品なんて当たり前じゃないか」という意見がありましたが、調査の結果、「コクヨさんのはさみなら間違いないと思いました」という声が多かったんです。実際に検証しないとわからないことがある。そこで、ネーミングの難しさを痛感しました。

タキザワ:すごい手が込んでいて面白いリサーチですね。そして、ネーミングも大事ですし、奥が深いですね。
藤木さんが関わった商品開発で、特に印象に残っているリードユーザーさんはいますか?

藤木:直近だと、片手しか使えないリードユーザーさんですね。新しくステーショナリーを開発しようとしていたのですが、その方は自ら手を挙げて参加されたのではなく、呼ばれて来られた方です。ワークショップで「これどうですか」「使いやすいですか」と聞くと、「いや、僕は全然困ってないです。だって生まれつき片手しかないので、全部できるから」と言って、あまり協力的ではありませんでした。
その後、何度かワークショップを重ねたり、食事をご一緒したりして少しずつ打ち解けてくると、こんな話をしてくれたんです。「僕、コンビニで買い物をするときも片手でしょ。レジでお金を払うとき、片手で財布を開けたりスマホを操作すると、どうしても時間がかかってしまう。後ろで待っている方に舌打ちされると、心の底から落ち込みます」そのときに、「普段どんなふうに生活していますか」「困っていませんか」と聞くだけでは見えない、自分でも気づいていない課題やニーズがあるのだと気づかされました。

タキザワ:リードユーザー自身も意識していない困りごとや、工夫などに気づけることは、すごくいい瞬間ですよね。商品開発のアイデアにもつながります。

 

 

リードユーザーと共存・共創するには?

 

タキザワ:ここからは壁打ちのコーナーです。藤木さん、タキザワと壁打ちしたいお題はありますか?

藤木: リードユーザーとの共存・共創に関する課題について話したいです。インクルーシブなプロダクトを生み出すには、リードユーザーと一緒に活動する「共存」だけでなく、一緒に創り上げる「共創」が必要だと考えています。正直、まだ実現しきれていないと思っています。

タキザワ:コクヨさんは、コクヨKハートさんがあり、障害のある方との共存はしやすい環境かなと思うのですが、それでも現状において課題はありますか?

藤木:先ほどご紹介したように、すべてのリードユーザーが社内にいるわけではないため、新たに募集する必要があります。どんな方とご一緒するかは大切な要素でありながら、マッチする方を集める仕組みを作りきれていません。

 

 

タキザワ:リードユーザーとテーマのマッチングはすごく大事な一方で、障害者などとのコミュニティやネットワークがないと、マッチングの精度が甘くなってしまいます。弊社ではプロジェクトのスタート時に、アンケートなどの定量調査から入ることが多いです。その際に、「今後インタビューやワークショップなどに関わりたいですか」という設問を設けて、「はい」と回答された方をリスト化しています。定量調査である程度の属性や趣味などパーソナリティがわかるだけでなく、インタビューやワークショップに参加いただくことで、弊社のことやプロジェクトを理解してもらいながら、リードユーザーの育成、コミュニティ化を進めています。
そして共創ですよね。どういった部分が課題ですか?

藤木:NPOインクルーシブデザインネットワークでは、企業のデザイナーを集めて3日間のワークショップを開催しています。その際に、リードユーザーに来ていただくのですが、初参加の方は「何を聞かれるんだろう」と身構えてしまい、率直な意見を伺いづらいんです。率直な意見が伺いづらく、共創することが難しいと感じています。ただ同じ方に3年連続で参加してもらい慣れくると、「こういうデザインはどうですか」と聞いた時に「2年前も同じ話がありましたが、こういう理由でダメだと思います」という答えが返ってきてしまうんです。経験値を積み重ねてもまた共創が生まれにくい。今後も生じる課題だと思うので、タキザワさんにご相談したいです。

 

 

タキザワ:すごくわかります。回数を重ねる中でリードユーザーさんの中で答えが決まってしまっていて、新しい発見が生み出せないことはあり得ます。これはリードユーザー側の問題ではなく、アサインする側の問題だと考えています。つまり、初心者の方、ベテランの方それぞれに合った案件があるんです。
例えば、今までにない新しい文房具を生み出したいなら、普段から色んな文房具を買って試している方や、AIを使いこなしている方など、好奇心が旺盛な若い人が活躍しやすい。一方で、時間や予算がなく多くのリードユーザーをアサインできない、商品の改善点をリサーチしたい時は、ベテランの方が安心してお願いしやすい。リードユーザーの特性を踏まえて、最適な案件にアサインすることが大切です。
もちろん経験を重ねると慣れてきてしまうので、若いリードユーザーを育てていくことも重要です。弊社では、「認定リードユーザー育成プログラム」の提供を始めました。視覚障害のある大学生が全3回のオンラインプログラムを受けると、PLAYWORKSの認定リードユーザーになれる仕組みです。

藤木:すごく大事だと思います。なかなか取り組んでいる企業は少ないですよね。リードユーザーの方にもぜひ学んでいただきたいのですが、そういった仕組みは今のところ見当たらないので、共創にはまだまだ余白が残っているかなと思っています。

タキザワ:障害者の法定雇用率を満たすために雇用するのではなく、自社のリードユーザーとして活躍してもらえる方々を雇用し、一緒に価値を生み出していく社会になったら素晴らしいですね。また、リードユーザーが成長する仕組みとして、HOWS DESIGNのリードユーザー版があると良いですね。インクルーシブデザインの基準をつくったように、コクヨの「ステーショナリー検定」を設けたり、「認定HOWS DESIGNリードユーザー」になれば、専門家として商品開発に携われるなど…

 

 

藤木:今度、タキザワさんの会社でリードユーザーを育成していただきたいです。

タキザワ:ぜひ、やりたいです。 自社のプロジェクトに関わるだけでなく、弊社のインクルーシブデザインのプロジェクトに参加いただくことで、リードユーザーも幅広い経験が積めますし、いろんな企業に在籍するリードユーザーをマッチングする仕組みも、実現したいと思っています。

藤木:やってみましょうか!

タキザワ:ぜひ、やりましょう! 最後に、今回の感想や今後の活動について伺えればと思います。

藤木:今日はすごく楽しみにしていました。いろいろなお話を通して私自身も気づきがあり、楽しかったです。今日の会話が次のワークにつながるようにできれば、なお嬉しいです。また機会をつくって、ご一緒したいです。

タキザワ:ありがとうございます!本日のゲストは、コクヨ株式会社エキスパートの藤木さんでした。

藤木:ありがとうございました!

 

 

PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel
https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign

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