REPORT|これからの社会を描くインクルーシブデザイン(後編)
2021年11月30日、PLAYWORKSインターン生が主体となり企画したイベント「これからの社会を描くインクルーシブデザイン」を開催しました。
九州大学 平井康之教授 と PLAYWORKS 代表 タキザワケイタさん に登壇いただき、インクルーシブデザインについて平井教授がアカデミック、タキザワさんがビジネス視点でプレゼンテーションをおこなって頂きました。お二人によるトークセッション、参加者からの質疑応答など「インクルーシブデザイン入門編」として非常に充実した内容となった本イベントについてレポートとアーカイブ映像を公開します!
これからの社会を描くインクルーシブデザイン
プログラム
● 平井教授:日本におけるインクルーシブデザインの変遷
● タキザワケイタ:インクルーシブデザインの実践
● トークセッション:平井教授 × タキザワケイタ
● Q&A
トークセッション:平井教授 × タキザワケイタ
インターン生の桐葉さんをモデレーターに、お二人のトークセッションが始まりました。
まず、インクルーシブデザインで何が変わるのか? お尋ねしたいと思います
タキザワ:一番変わったのは自分自身ですね。インクルーシブデザインに出会う前は、身近に障害者はいなかったですし、むしろ避けてきた人生でした。無意識に障害者というフィルターで見ていた気がします。インクルーシブデザインに取り組み始めてから障害者の友人がたくさんできましたが、普通に生きてきたらなかった出会いだと思います。また、自分の息子、娘は手話や点字に興味を持っていたりするのですが、親がやっていることを見ているんだなぁと… インクルーシブデザインで社会を変えるには、まだまだハードルがありますが、自分ができるところから変えていきたいですね。
平井:一番大事なのは「理解のデザイン」、理解をどうデザインするかだね。デザインで何を提供するか? というよりは、提供する我々に掛かっているバイアスに気づき、もっとフラットなモノの見方をしていくこと。それを含めて理解のデザインだと考えています。
フラットにデザインしていく上での難しさは何でしょうか?
平井:「ライフマップ」という高齢者の介護施設マップを作ったことがあります。当事者の入居者や家族、ケアマネージャー、スタッフなどの中に入っていって、どういうコミュニケーションが起こっているかを見ていきました。すると介護の素人であっても、ケアマネージャーが気づいていないことに気づけたりする。学生がひょこっといって、高齢者の昔話を聞けたりする。介護施設は肉体の残存能力を維持するためにあるけど、そのことだけをやっていると理解につながらない。「ライフマップ」では、その人の人生を振り返ってお迎えが来るまで何をやるかというアクションを考える。すると介護者もその人のことがわかるし、本人もアクティブに動くようになったんだよね。
障害者と活動する上で気をつけていることはありますか?
タキザワ:PLAYWORKSは視覚障害者のリードユーザーと共創することが多かったのですが、視覚障害者といっても、生まれつき見えない方もいれば、病気で徐々に見えなくなっている方、事故で突然に見えなくなった方もいます。多様な視覚障害者に話を聞かないと、障害が理由なのかその人の性格なのか、その方が大切にしていることや共感するポイントなどを見間違えてしまうことがあるので、そこは気をつけています。
平井:「障害者だからこう接しないといけない」と思っていること自体が、すでにバイアスが掛かっているよね。お互いに理解し合うアクションを取り合うことが大切だし、その方が理解し合える。インタビュアーとインタビュイーの関係だと、打ち解けられない。同じ目線で同じモノを見ながら、あーだこーだ言いながら進めていくと、フラットな会話ができる。会話からどんどん絵が広がっていってモノになり、デザインになっていくから、まずは会話が楽しくないと良いデザインに繋がっていかない。
タキザワ:最初のコミュニケーションで関係性が決まってしまうので、ワークショップではリードユーザーである障害者と参加者の「出会いのデザイン」を大切にしています。特に、企業とのプロジェクトだと使える時間が限られているのですが、アイマスクをする・耳栓をするなど障害の疑似体験を通じて、フラットな関係をつくれるように工夫をしています。
平井:ワークショップでは最初にプロフィールや好きなもの、趣味を描いてもらいます。どうしても障害に目が行きがちなので、人としてフラットな関係、ジュリア・カセムさんのワークショップで「喋らずに機械を身体で表現する」というワークがあって、洗濯機やコピー機を身体で表現するんだよね。そのワークから新しいコミュニティや雰囲気が生まれていっています。
社会実装についてはいかがでしょうか?
平井:自分がこれまでに実装してきたのはデザイン人材です。いろんなところでインクルーシブデザインを学ぶ学生が生まれていくこと、具体的なプロダクトやサービスもいくつかの事例が出てきていると思います。
タキザワ:障害者のリードユーザーと共創すると、その障害者向けのプロダクトやサービスになるので、それだとビジネスとしては難しい… 最初は目の前のリードユーザーと一緒につくっていくけど、最終的にはより多くの人に価値提供できるビジネスとしてデザインすること。それを常に頭に置いて、プロジェクトを進めています。しかし、健常者にとっても価値あるモノでも、「障害者と一緒につくりました」とPRすると、健常者の自分ゴトにならなくて、健常者を排除してしまうことになる。これはなかなか難しい問題だと思っています。
平井:ユニバーサルデザインが出始めた時、自動車でもドアが広くてユニバーサルデザインとして乗り込みやすいっていうのがあったけど、もう今はそれをわざわざ言ったりはしないですし。
これからチャレンジしたいコトはありますか?
平井:タキザワさんのプレゼンであった「これからチャレンジしたいコト」は、夢があって良いなあ。楽しそうに語ってた。インクルーシブ公園は福岡市で作ることが決まっていて、ただの場所ではなくて、そこでのコミュニケーションについても含まれるので、すごく広がる。いい形で作っていきたいと思っています。
タキザワ:公園は日常生活の中に溶け込んでいる場なので、自分もインクルーシブ公園には注目しています。うまく日本にインストールされて欲しいですね。
Q&A
ここからはチャットに寄せられた参加者からの質問に回答いただきます。
Q:インクルーシブデザインはプロダクトが多いと思いますが、グラフィックなどそれ以外の分野はどう関われるのでしょうか?
平井:直近で言うと、福岡県の福津市にある宮地嶽神社。「子育てサービスマップ」があるんだけど、グラフィックの中に行政サービスで伝えたいメッセージを可視化しているんだよね。グラフィックで気持ちの寄り添いを伝えられる。相談窓口の電話番号も「相談があったら電話してください」って書いてあっても、なかなかかけられない。番号の横にお父さんお母さんが泣いてる絵や、双子のバギーの絵を入れるなど、伝えたいメッセージを可視化できるんだよね。
タキザワ:「やさしい日本語」「やさしい字幕」は興味深いプロジェクトです。教育教材などに分かりやすい日本語で字幕をつけていってるのですが、それは聴覚障害児にとって便利なだけでなく、やさしい日本語なので他言語への翻訳率が高いんですね。それによって世界中の人々にコンテンツを届けることができる。また、NHK Eテレの「おかあさんといっしょ」体操コーナーで、毎週月曜日は座ってできる「すわって からだ☆ダンダン」になっている。車椅子や立ったままが難しい子も、同じように一緒に体操ができる。インクルーシブデザインはプロダクト以外の領域でも、いろいろな可能性があると思います。
Q:防災や避難所のインクルーシブデザイン事例があれば教えてください。
平井:車椅子利用者が火災や地震の時に、建物の上層階からどうやって逃げるか。車椅子と一緒に避難しないと後が大変なんですよ。そして、諦める人がいる。避難訓練の調査で、逃げる時は知っているルートからしか人は逃げないんです。そして自分の使っている階段しか知らない。避難の時に認知してないと使えないっていうのがあって、日常的に全員が知ることが大事ですね。
タキザワ:実際、災害時に障害者の死亡率は高いというデータがありますからね。ゼネコンの事例で、火災時に水が出るスプリンクラーがカーテンの道みたいになっていて、それに沿って逃げると迷わず安全に避難することができる、というアイデアは良いなと思いました。また、ワークショップになりますが、障害者雇用をしている会社で視覚障害、車椅子、精神障害の人たちと一緒に避難訓練をしてみたことがあります。その時も、車椅子の人が私を置いて逃げてと言う、ということが起きました。実際に体験して自分事化することで、はじめてわかることが多いですね。
Q:日本におけるトイレは多様性を考え進化していますが、課題も多いように感じます。トイレのデザインは今後どのようになっていくのか、考察があれば教えて下さい。
平井:トイレについて取り組んでいるところは多いので、ユーザビリティは進んでいるけど、なかなかフィットしない。障害のある方が設計をやったり、ワークショップで気付きを得ながらインプットしても、それが商品になるまでの道のりが長い。
タキザワ:まさにですね。PLAYWORKS も多目的トイレについて企業から相談を受けたことがあって、いろいろと提案をしましたが、結局はプロジェクトにならなかった。個人的にも多目的トイレはどうにかしたいと思っているのですが、レイアウトやボタン配置などを共通化したり、センサーなどのテクノロジーを使用するなどの改善案はあっても、それでは本質的な問題は解決しない。「社会の中で多目的トイレがどういう存在であるべきか?」について多様な人々と対話し、一緒にビジョンをデザインしていく必要があると考えています。
Q:健常者も着たくなるファッション企画に取り組んでいます。障害者だけでなく多くの人の意見を取り入れた方が良いのでしょうか?
タキザワ:障害者の意見を取り入れた場合、ディテールの機能的な改善に集約する傾向がありますが、機能以外の情緒的な価値も一緒にデザインしていく。また、「障害者と一緒につくりました」とPRすると、健常者は自分事化しないので、情報発信の仕方も大切ですね。
平井:最近、ファッションに関する取り組みが増えているよね。ファッションは取り組みやすいようでいて、実は取り組みにくいですね。エイブル・アートジャパンが、色んな作家が描いた絵の使用権を企業に売るということをやっていて、その絵をメンズ・ウィメンズのブランドに展開したりしていますね。
Q:障害者をどの程度インクルードすべきか迷っています。インタビューだけで良いのか、それともメンバーとして巻き込むべきなのでしょうか?
平井:カセムさんのやり方と自分のやり方は違うし、デザインパートナーとどう作っていくかって、答えがあるようで無いんですね…。プロセスの始めから終わりまで同じ人と一緒にやるのが良い、と自分は思っています。
タキザワ:メンバーとして迎え入れるかについて、これまでのプロジェクトを思い返してみた時、「この人のために、この人と一緒に、ものづくりにチャレンジしたい!」と心から思えるかどうか?だと思いました。それはもう障害があるどうかは関係なく、この人とチームの仲間としてやりたいかどうかが大事。
Q:インクルーシブデザインはどのように学べば良いでしょうか?
平井:九州大学もですが、最近は他にもインクルーシブデザインの授業を組んでいる学校があるね。でも、インクルーシブデザイナーとの出会いは難しいですよね… 私やタキザワさんにご相談いただいたら、出来る範囲で紹介しますので!
タキザワ:PLAYWORKSではインターンを募集しているので、学生であればインターンとして経験を積むのが一番良いと思います! また、企業向けにインクルーシブデザインを学べる研修プログラムを提供したいと思っています。
さいごに皆さんにメッセージ!
最後に、インクルーシブデザインに興味のある人へメッセージをお願いします。
平井:本日はありがとうございます。一つでもインスパイアされたものがあったら嬉しいです。「アスピレーション」という言葉を多く使ったけど、インクルーシブデザインをメソッドとしてどう取り入れるかより、人によっての多様性をどう埋めていくか? という発想でプロジェクトに取り組む人が、いっぱい増えていってもらえたらと思います。
タキザワ:インクルーシブデザインに取り組みはじめてから、気づきと発見の連続です。インクルーシブデザインの楽しさと可能性を、皆さんにも体験して欲しいですし、これから一緒にチャレンジしていけたら嬉しいです!
「これからの社会を描くインクルーシブデザイン」レポート(前編)は以下をご覧ください!
https://playworks-inclusivedesign.com/column/column-2082/
「これからの社会を描くインクルーシブデザイン」アーカイブ映像