COLUMN|リードユーザーから見たインクルーシブデザイン:視覚障害者 座談会
PLAYWORKSと大手企業とのインクルーシブデザイン・プロジェクトにおいて、リードユーザーとして活躍している視覚障害者3名をお招きして、リードユーザーになったきっかけや企業がリードユーザーと共創するメリット、障害当事者がリードユーザーとしての活動から得られるものなどを語っていただきました。PLAYWORKSタキザワのファシリテーションのもと、「リードユーザーから見たインクルーシブデザイン座談会」の様子をお届けします!
視覚障害リードユーザー
中川テルヒロ
ソフトウェアのプログラマー。ランニングが趣味で、10km以上の距離を月に3〜4回は走るのが習慣。左目が全盲、右目は中心のみが見えている状態。
長谷部亮治
会社員として働いており、趣味はオーディオブックで読書をすること。長谷部史織さんの夫。10歳くらいまでは普通に見えていたが、少しずつ視力がなくなり、現在は両目ともに全盲。
長谷部史織
ダンベルでの筋トレが最近のマイブーム。長谷部亮治さんの妻。6歳くらいまでは視力が2.0あったが、病気で弱視になり、現在は明るさがわかる程度の視力。
座談会の様子 / 左上から長谷部亮治、長谷部史織、PLAYWORKS タキザワケイタ、中川テルヒロ。左下から大崎博之、目次ほたる(ライター)。
視覚に障害のある3人がリードユーザーになったきっかけ
タキザワ:まずは、皆さんがリードユーザーになったきっかけを教えてください。
中川:僕は友だちに誘われて参加したワークショップに、PLAYWORKSのタキザワさんもいらっしゃって、たまたま同じチームになったのがきっかけでした。
長谷部史織(以下、史織):私はもともと中川さんと知り合いで、中川さんにタキザワさんを紹介してもらったのがきっかけ。夫ともワークショップで出会いました。
長谷部亮治(以下、亮治):僕は妻にタキザワさんを紹介してもらって、リードユーザーを始めました。今では夫婦ともに、PLAYWORKSのプロジェクトでリードユーザーをやらせてもらっています。
タキザワ:これまでに関わったインクルーシブデザインのプロジェクトで、印象に残っているものは?
中川:大手エレクトロニクスメーカーさんとの「キャッチボール」をテーマにしたプロジェクトが印象に残っています。「音」を仮想のボールとして、見える見えないに関係なく投げ合う体験ができるもので、ワークショップでの「息子とキャッチボールがしたい」という僕の発言から生まれたアイデアです。ワークショップ後もリードユーザーとして参画し、デザイナーやエンジニアの方たちと一緒にプロトタイピングしていったので、非常に印象に残っています。
史織:私はぺんてる株式会社さんとの「視覚障害者との新しい画材開発」のプロジェクトが忘れられません。1年に渡ってリードユーザーとして参加し、リサーチやアイディエーションのワークショップを3〜4回、プロトタイプへのフィードバックを2回おこなうなど、少しづつ形になっていくプロセスが純粋に楽しい体験でした。あとは、日本特殊陶業さんの「視覚障害者の飲食シーンを調査」も印象的でしたね。人前で、しかも撮影されながら食事をするなんて経験がなかったので、すごく緊張しました(笑)。
亮治:僕は大手エレクトロニクスメーカーと取り組んだ、「白杖」デバイスのプロジェクトや、「ワイヤレスイヤホン」のリサーチなど、視覚障害と関連のあるプロジェクトにリードユーザーとして参画したことが印象深いです。
タキザワ:リードユーザーの立場から「インクルーシブデザイン」とは?
中川:製品やサービスが完成した後に、障害者や高齢者がフィードバックするのではなく、プロジェクトの初めから当事者がリードユーザーとして入ること。そして、当事者の立場で意見やアイデアを共有しながら、一緒に新しい価値を生み出していくこと……ですかね。リードユーザーがプロジェクトに伴走することで、新たなビジネスが生まれる可能性を持ったデザイン手法だと考えています。
史織:中川さんがいうように、ものづくりの過程を体験しながら、一緒に作り上げるところが一番の特徴ですよね。企業の方とリードユーザーが対等な立場で製品やサービスを作れるのは、自分にとっても魅力的です。
亮治:たしかに、プロジェクトの初期段階からリードユーザーが参画するメリットは大きいですよね。障害について詳しくないメンバーも、プロジェクトの中で少しづつ理解を深めながら開発することができる。それがインクルーシブデザインの可能性なんじゃないかな。
タキザワ:リードユーザーとしてどのようにプロジェクトに関わっていますか?
中川:プロジェクトやメンバーとの関係値がゼロの状態で、キックオフのワークショップから始まることが多いです。その後、2回3回とワークショップを繰り返すうちに、メンバーとの関係性ができてきて、共創をしていく中で思いもよらないアイデアが生まれ、プロトタイピングをしながら徐々に形になっていくのが楽しいんですよね。
タキザワ:まさにそれこそインクルーシブデザインの醍醐味ですよね! プロジェクトにリードユーザーが入る時に「障害者」としてではなく、「未知の未来に導いてくれる仲間」として迎え入れる意識が大事だと思っています。同時に、誰をリードユーザーとしてアサインするかは、いつも頭を悩ませながらお声がけしています。
障害のリアルを伝える、リードユーザーとしての社会貢献
タキザワ:次は「リードユーザーとして貢献できたと思うこと」を聞いてみたいと思います。
史織:私は、障害者も健常者もそんなに違いがないと、知ってもらえたのが良かったかも。障害者って家にこもりがちなイメージがあるようですが、実際に私と話すことで、明るく楽しい暮らしだとわかってもらえるというか。
亮治:僕は「視覚障害者と初めて話した」という方と交流する中で、目が見えなくてもさまざまな工夫やテクノロジーを活用することで、できることは沢山あることを知ってもらえました。実際に話したり障害を擬似体験してもらいながら、お互いに理解を深めていく。こうした機会を作っていくことも、リードユーザーとしての役割だと思っています。
タキザワ:2人とも、障害に対する「無意識のバイアス」を壊すことができた、ということですね。
亮治:そうですね。そうすることで偏った視点を持たずに、一緒にインクルーシブなプロダクトやサービスをつくっていけるんじゃないかと思います。
タキザワ:企業側から見て「リードユーザーと共創するメリット」は何だと思いますか?
亮治:これまでにない新たな視点を、ビジネスに取り入れられると思います。障害当事者であるリードユーザーの視点が入ることで、今までにないアウトプットが生まれる。それが売上につながるとすれば、メリットは大きいのではないでしょうか。
中川:参加している企業の方たちも「視覚障害」というテーマをきっかけに、お互いの新しい側面を知るきっかけにもなっていますよね。チームビルディングにも効果的なのは、インクルーシブデザインの魅力の1つだと思います。
タキザワ:リードユーザーとの共創を通して、より新規性が高い事業や製品、サービスにつながった例は多いですよね。でも、インクルーシブデザインの導入に踏み出せない企業もまだまだ多い。その点について、皆さんはどう思いますか?
中川:実際にリードユーザーとして障害者を1人雇ってみるのが早いんじゃないですかね……。障害者の日常に触れることで、事業に役立つ気づきが得られるはずです。インクルーシブデザインの価値や可能性に気付いている企業こそ、積極的に障害者をリードユーザーとして雇用していって欲しいですね。
「当たり前」が価値になる。障害当事者がリードユーザーになる意味
タキザワ:逆に「障害当事者がリードユーザーになるメリット」も聞いてみたいです。
中川:日々の生活で当たり前に工夫していることが、企業や健常者にとって価値があるものだと気づける点が大きなメリットですね。障害はただしんどいだけじゃないと思えるんです。
亮治:うんうん。僕自身もリードユーザーになるまでは「ただ目が見えない世界で生きている」という感覚でしたが、今は「見えない世界のプロ」として価値を提供できています。自分の障害と付き合う中で色々な工夫もしたし苦労も味わってきた。その経験が誰かの役に立つことが本当に嬉しいです。みんなにもぜひリードユーザーをやってみてほしい。
史織:私も他のリードユーザーさんの「日頃の工夫」を聞いて、自分の生活に取り入れています。視覚障害に限らず、人は意識せずに生きていると関わるコミュニティが限定されて世界も狭くなりがち。だからこそ、リードユーザーの活動を通じて自分と異なる障害を持つ方に出会ったり、健常者の方とお話することで視野が広がるのだと思います。交流を通じて新たな世界が広がるので、リードユーザーになるのはとてもオススメです。
タキザワ:リードユーザーとして活動することで社会との接点が生まれ、自己肯定感も高まるということですね。
大切なのは「多様な視点」と「場作り」。リードユーザーとして意識していること
タキザワ:リードユーザーになってから「自身の変化や成長」を感じることはありますか?
亮治:リードユーザーに慣れてきたのはつい最近ですね。始めた頃は自分の苦労話ばかりで、新しい気づきやアイデアに役立たないことばかりだったと思います。でも、さまざまなプロジェクトに関わる中で、「リードユーザーはクライアントと一緒に、プロダクトやサービスをより良くする存在なんだ」と体感できるようになった。その場での役割を全うできるようになったのが成長かな。
中川:成長という点では、プロジェクトに一緒に参加する方々がリラックスできるような「場作り」まで意識できるようになりました。プロジェクトが始まった直後だと緊張している方も多いので、場を和ませて気軽に意見を言える環境を作りたいんですよね。
亮治:僕も場作りはかなり意識しているかも。視覚障害者と初めて接するという人も少なくないので、自分から話しかけるなどコミュニケーションは工夫しています。
史織:私は、自分の意見=すべての視覚障害者の意見と思われないように気を付けてます。「私はこうだけど他の人はこう思うかもしれない」など、伝え方はいつも気を使っていますね。
タキザワ:お仕事をされてい方は「本業とリードユーザーのバランス」はいかがですか?
亮治:今は会社員として働いているので、リードユーザーとしての活動機会が少なくなっています。本当はもっと活動を増やしたいのですが……。
タキザワ:リードユーザーとしての活動量を増やして、「副業」といえる状態まで持っていきたいなと思っています。
亮治:それは良いですね。副業になれば活動の機会も増やせるし、いずれは本業の会社でもリードユーザーとしての関わり方ができるかもしれない。
タキザワ:それは理想的ですね! みなさんが自信を持って「副業としてリードユーザーもやっています」といえるようにすることが、PLAYWORKSの直近の目標です。
知恵や工夫を社会に還元したい。これからリードユーザーとして取り組みたいこと
タキザワ:リードユーザーとして「これから参画してみたいプロジェクト」はありますか?
中川:ホテルや宿泊施設のプロジェクトに挑戦してみたいです。車椅子ユーザー向けの施設は多いですが、視覚障害者向けって少ないんですよね。そこに目を向けてもらえる宿泊施設を作ってみたい。
亮治:僕はジムの案件に携わりたいですね。一般のジムでは入会の時点で断られてしまうことが多いので、障害者でも一般のジムに入れるシステムづくりができたらいいな。現状では行政が関わっている障害者向けのジムにしか行けないんです。
史織:私は化粧品関係の案件に興味があります。私が化粧品をお店で探していると驚かれるんですよね。視覚障害があっても色のついた化粧品を使ってメイクを楽しんでいる人は多いんです。まずはその事実を知ってほしい。商品開発というよりも、マインド自体を変えていきたいなと思ってます。
タキザワ:ありがとうございます。最後にメッセージをお願いします!
中川:これからリードユーザーを目指す方は、「企業の役に立たなければ」というプレッシャーもあると思います。でも、リードユーザーの経験がないことも1つの価値です。ありのままで参加することも大事なので、まずは気負わず、一緒にプロジェクトに参画してくれると嬉しいです!
亮治:インクルーシブデザインを導入したいと思っている企業の方々にも、ぜひ積極的に取り組んでほしいです。日本はこれから少子化が進み、障害者もどんどん社会に出ていく時代になります。それに先立ち、今からインクルーシブデザインに取り組むことは、企業にとっても優位性になる。僕たちも障害者としての日々の工夫を社会に還元するため、積極的にお手伝いしたいと思っているので、ぜひよろしくお願いします!
史織:私からは、企業の方は「障害」にフォーカスしすぎないでほしいと伝えたいです。障害者がプロジェクトに加わると、障害のことだけを考えすぎて、プロジェクトの幅が狭まってしまうことも多いんです。障害者も含めた多様な視点で「みんなが暮らしやすい社会を考えること」こそが、インクルーシブデザインの可能性だと思います。
タキザワ:インクルーシブデザインについて、リードユーザーの視点からさまざまなご意見をいただきました。皆さん本日はありがとうございました!
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