INCLUSIVE DESIGN Talk|NPO法人Collable 山田小百合

インクルーシブデザイントーク 「ために」から「ともに」へ NPO法人Collable 山田小百合

インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKSタキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回はインクルーシブデザインによる様々なプロジェクトを展開する、NPO法人Collable 代表理事の山田 小百合さんにお越しいただきました。「誰もが社会に参画できる」未来を目指し、どのようにプロジェクトを進めているのか? リードユーザーを巻き込んだインクルーシブワークショップの工夫や苦悩、今後の展望について伺いました。

障害のあるリードユーザーが活躍できる社会を目指して NPO法人Collableの挑戦

Zoom画面。PLAYWORKS タキザワ、Collable 山田さんが並んでいる。

「ために」から、「ともに」へ。

 

タキザワ:まずは、Collableについて紹介をお願いします。

山田:NPO法人Collableはインクルーシブデザインを活用した様々な共創プロジェクトを展開しています。私が大学院生の時に、インクルーシブデザインや学習環境デザインの切り口から障害の有無に関わらないワークショップの実践研究を行っていました。その延長で、2013年にNPO法人として立ち上げ、今年で11年目を迎えます。

タキザワ:もう10年も経つんですね! PLAYWORKS株式会社は4期目に入ったばかりなので、大先輩です。設立当初はどのような事業に取り組んでいたのですか?

山田:修士論文で子どものワークショップを扱っていたこともあり、はじめは子どもたちを交えてダイバーシティ&インクルージョンを体感できるワークショップを実践していました。その延長で、2018年にはSCSKグループの社会貢献活動「CAMP」と共同で、障がいのある子もない子も一緒に楽しめる場づくりのワークショップを開発し、キッズデザイン賞を受賞したこともありました。
正直、創業当初は「インクルーシブデザイン」という言葉を知らない人が多く、私たちがバットを振ろうとしても、そもそもボールが飛んでこない状況でしたね……。外部向けにはじめて“ベタな”インクルーシブデザインのワークショップを開催したのが、シブヤ大学でした。

Collable 子供ワークショップの様子

 

タキザワ:“ベタな”インクルーシブデザインとは、どういったものですか?

山田:簡単にいうと、リードユーザーの行動を起点にデザインリサーチをはじめることです。まずリードユーザーの行動を起点に、本人が気づいていないような行動や習慣、工夫などを発見していきます。それらをもとにリードユーザーを交えて分析・検討し、重要な課題や新たな視点を明らかにするんです。そこから思いついたアイデアをカタチにする。それが、“ベタな”インクルーシブデザインだと捉えています。
2013年にシブヤ大学でワークショップを開催したあたりから、徐々に自治体や街づくりの文脈でワークショップを開催する機会が増えました。2015年には、市民の要望をプロジェクトに反映するための市民ワークショップ「にしお未来まちづくり塾」のファシリテーターも担当しました。一般的な街づくりのワークショップだと、高齢の方の参加率が高くなってしまうのですが、インクルーシブデザインであれば多様な人を半強制的に巻き込むことができるんです。社会的マイノリティになりがちな人々の御用聞きをするのではなく、一緒に街づくりと向き合って考えられることが面白いですね。

 

限られた時間の中で、最大限の“気づき”を得る

 

山田:2019年から2020年にかけて、徳島県立博物館の常設展リニューアルに携わりました。「誰もが歓迎される博物館」を目指し、2019年にはワークショップを2回実施。視覚障害者や聴覚障害者、車椅子ユーザー、徳島県在住の外国籍の方をリードユーザーとしてお招きし、徳島県立博物館の学芸員と設計担当の乃村工藝社と共に、展示物の展示や解説方法についてリサーチ・検討からプロトタイプの作成までを行いました。

2020年になると、“ベタな”インクルーシブデザインではなく、展示物の翻訳をどう作るかについて、外国語を話す非翻訳者、展示物の専門家を交えて活動しました。たとえば、地名のついた焼き物の名称を理解できるのか、英語で江戸時代と伝えたらその時代背景は伝わるのか、など。文化的な言葉を日本語から英語や中国語に翻訳する際に、歴史的背景が伝わらないことが多いだけでなく、正しい翻訳も存在しないことがほとんどです。どんな言葉であれば適切に伝わるのか、試行錯誤しました。

タキザワ:なるほど。僕もリニューアル後の徳島県立博物館に視察に行かせて頂きました。展示パネルの高さや見せ方を工夫されていましたね。

山田:そうですね。車椅子ユーザーの方がパネルを覗けるようにしたり、車椅子の車輪がぶつからないようにしたりと、いろいろと実装しています。

たとえば、福島のあちこちで出土されている薄い石碑「板碑」を視覚障害者向けに説明しようとしたときに、ガラスケース内で展示されていることもあって、説明が難しかったんです。そこで、カラーコピーで印刷した原寸大の板碑を用意してもらい、壁に貼ってリードユーザーの方に手で触れていただいたんです。そしたら、伝えたかったことが上手く伝わって。しかも、板碑の下の方は土に埋もれていて展示で見えなかったのですが、全体像が可視化され、ディテールの通った会話ができるようになりましたね。視覚障害のあるリードユーザーと鑑賞を試みたからこそ、そもそもすべての来館者に板碑の何に気づいてもらいたいか、気づけたら面白いのかを発見することができたことが重要です。リニューアルではそれをどう鑑賞環境に実装できるかを考えることができました。

徳島県立博物館の展示物

 

タキザワ:実際に触って体感できると、健常者にとっても大きな体験の向上になりそうですね。

徳島県立博物館のプロジェクトのように、ワークショップの期間や回数が限られていることも多いですよね。1、2回しか実施できない中で、どういったアウトプットを出すべきなのか難しいなと感じていて… なにか工夫されていることはありますか?

山田:依頼者が求めているアイデアの種や課題の方向性、気づきはなにか、それらを持ち帰ってもらう数を増やすためにはどうしたらいいかを考えています。集まった情報や素材をもとに調理の仕方を考えたり、依頼者の意向を伺いながらレビューをしたりしています。

 

子どもの行動が、大人のバイアスを崩す

 

タキザワ:創業当初に行っていた子どもとのワークショップと、現在のような障害者を巻き込んだものでは、どのような違いがありますでしょうか?

山田:大人の場合「目が見えない人は、こういった困りごとを抱えているだろうな」「耳が聴こえない人は、こんなことで困っているんじゃないか」といったバイアスがかかった状態で、プログラムを作ろうとすることが多いんです。それらをフワっと壊しにいくことを心がけています。
たとえば視覚障害者に会ったことがない方は、自分が持つ知識の中で「視覚障害者とはこうである」という思い込みがありますが、実際に会って会話をしながら個人の生活スタイルや世界観を知ることで、バイアスが崩れる瞬間が訪れるんです。逆に、子どもの場合は良い意味で障害者と健常者の違いを明らかにしないんですよね。たとえば、知的障害を持つ子どもと関わる時でも、単に落ち着きのない同級生だなくらいにしか思わなくて。その状況を大人が見るとびっくりすることが多く、子どもたちの存在が大人のバイアスを崩すきっかけになります。

タキザワ:たしかに、大人になると自覚していないバイアスがたくさんあって、それらを取り除くプロセスやプログラムのデザインが大切ですね。ワークショップに参加される方のバイアスを壊す工夫はありますでしょうか?

山田:いろいろ試してみていますが、最近はワークショップのテーマにあわせて、自己紹介シートを書くことを実践してみています。障害を持つ見知らぬ者同士がいきなり出会って関わることは、ハードルが高いなと思っています。
最近実施した「雨の日の外出をデザインする」というテーマのインクルーシブワークショップでは、「最高にテンションが上がる天気はどれですか?」「雨の日にテンションを上げる方法を教えてください」などの質問をいくつか用意しました。その回答をリードユーザーと見せ合うことで、お互いに共感できる点を見つけて同じ目線を持ったり、異なる点からさらに深堀ったりできるんです。たとえば、視覚障害を持つ方が「白杖を持ちながら傘をさすことは大変」と回答していれば、具体的にどんな困りごとがあるんですか、とカジュアルに聞くことができます。

タキザワ:いきなり「雨の日の困りごとはなんですか?」と聞いてしまうと、むしろ既存のバイアスを強化することにもつながりかねないですからね。他に気をつけていることは他にありますか?

山田:自分のファシリテーション能力を超えたリードユーザーの数を集め過ぎないことですね。予算がないと1人でやり切るしかないこともあるのですが、理想は1グループあたりリードユーザー1、2名を含んだ合計6人で、最大4グループまでかなと思います。

タキザワ:なるほど。

山田:タキザワさんにぜひ壁打ちをお願いしたいのですが……。インクルーシブワークショップのファシリテーションを担える人が増えたら、インクルーシブデザインに取り組むプレイヤーがもっと増える気がするのですが、「ファシリテーションは難しそう」と思われることが多いんです。どうしたらインクルーシブワークショップのファシリテーターを増やせると思いますか?

タキザワ:正直、インクルーシブデザインのワークショップの難易度は相当高いですよね。「ワークショップデザイン」「ファシリテーション」「障害理解」を掛け合わせたらできると思いますが、一番大事なのはマインドですね。未知の領域に飛び込めるか、楽しめるか。得られた気づきにワクワクするか、アイデアに昇華できるか、障害の有無に捉われずに仲間として迎え入れられるか。そういったマインドが、スキル以上に求められる気がします。

山田:私の周りにいるメンバーやプロボノの方もマインド形成はできていると思うんですけど、高いハードルをみんな感じているんですよね……。

タキザワ:ファシリテーションスキルを身につけるためには、いくつかステップを踏む必要があるんですよね。ただ、完成形だけを見てしまうと、そこまで熟達するイメージが掴みづらいのではないかと思います。

山田:たしかに。私はファシリテーションをきちんと習ったことはないですが、所属していた研究室がワークショップデザインに造詣が深かったことが大きいかもしれません。先輩がファシリテーションする様子を見たり、私自身がファシリテーションの一部を担ってフィードバックをもらう機会があったりと、知識や経験を積む機会が多かったからかなと思います。

タキザワ:そうですね。これは難しいテーマですね。僕自身も悩んでいる課題だと気づかされました。

 

キャリアの選択肢を増やし、社会で活躍できる場を

 
山田:NPO法人Collableの設立から10年が経ち、最近では「認定リードユーザー」の制度を立ち上げています。インクルーシブデザインに取り組む企業がリードユーザーを巻き込んでプロジェクトを始めたいと思っても、障害を持っている方であれば誰でもいいわけではないんです。人柄や条件も含めて合う合わないが如実に出るからこそ、リードユーザーをコーディネーションするスキルが大事になります。
実際に、大事なプロジェクトに呼ばれるリードユーザーは固定化されているんです。その多くは、一般企業に勤めた経験を持っていて、クライアントワークにもすんなり入れている。逆に、それらの経験がないと難しいのが正直なところです。そこで私たちが、リードユーザーとして社会で活躍できる経験を提供し、スキルを伸ばすお手伝いができればと考え、認定リードユーザー育成講座を始めました。リードユーザーが一つの職種として扱われるようになると、障害を持つ方の活躍の幅が広がると思います。
最終的には、企業が行っているプロジェクトのリードユーザーとして活躍してほしいんです。障害者の雇用が義務づけられているから、企業は障害のある方を雇うのではなく、共にダイバーシティー&インクルージョンを実現するために障害者の意見を求めている、そんな存在になれることが理想です。インクルーシブワークショップで培ったスキルは、きっと様々な場でも転用可能だと思うので、ここでの経験を社会で活躍するためのファーストステップとして捉え、活かしていってほしいです。

認定リードユーザーの集合写真

 

タキザワ:リードユーザー不足は、弊社にとっても大きな課題ですね。 
山田:もともと障害者雇用の領域は、すでに多くのプレイヤーが存在することもあり、私たちは参入を考えていませんでした。ただ、たまたま障害を持つ学生がインターンとして関わっていることもあり、障害を持つ学生のキャリア形成が難しいという課題をよく聞いていたんです。
就活で取り残されてしまったり、社会経験を築くことが難しかったり、当事者のロールモデルが少なくて社会人になったときのことが想像できなかったり。そういった障害や生きづらさをかかえる若者のキャリアや生き方を応援するプロジェクト「GATHERING」も最近始めました。たとえば、障害のある社会人100名へのインタビュー企画「100職種プロジェクト」を、障害学生が取材したり、障害学生向けにセミナーを開催したりしてます。インクルーシブデザインを起点にキャリア形成の文脈にも取り組んでいます。

タキザワ:いいですね。そういったリードユーザーや障害学生の活躍の場が認知され、一緒に社会で活躍できたら嬉しいですね。取り組みにとても期待、応援しています。今回はありがとうございました!

山田:ありがとうございました!

 

  

PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel

https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign

 

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