INCLUSIVE DESIGN Talk|感覚過敏研究所 加藤路瑛

PLAYWORKS INCLUSIVE DESIGN Talk 感覚過敏研究所 加藤路瑛 五感にやさしい空間を。

インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKS タキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回は株式会社クリスタルロード 代表取締役社長の加藤路瑛さんにお越しいただきました。感覚過敏の課題解決を目指して「感覚過敏研究所」を運営している加藤さんに、感覚過敏が抱える課題や解決に向けた取り組み、今後の展望について伺いました。

 

五感にやさしい、空間を。

 

縫い目は外側、タグなし。感覚過敏でも安心して着られる服

 

タキザワ:まずは簡単に自己紹介をお願いします。

加藤:株式会社クリスタルロード 代表取締役社長の加藤路瑛と申します。12歳で起業し、2020年1月に感覚過敏の課題解決を目指して「感覚過敏研究所」を立ち上げました。
「1ミリの安心から100キロの自由へ。」というコンセプトのもと、服という“ミリ単位の空間”から、カームダウンスペースやセンサリールームといった“メートル単位の空間”、そしてセンサリーマップを通じた“キロ単位の都市空間”まで、五感にやさしい環境づくりを進めています。
私自身も感覚過敏の当事者で、中学時代は感覚過敏などを理由に不登校となり、高校や大学も通信制を選択しています。現在は、早稲田大学 人間科学部の通信教育課程にて、障害学や心理学、ニューロサイエンスなどを勉強しています。

 

タキザワ:19歳でありながら幅広く活動されていて、驚きですね。そもそも感覚過敏とはなんですか?

加藤:感覚過敏は、主に視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの諸感覚が過敏で、日常生活に困難さを抱えている状態を指します。病気ではなく症状であるため診断名はつかず、明確な緩和方法も見つかっていません。自分の中で困り事があったとしても周りの人と感覚を比べることができず、気づくことが難しいです。
感覚過敏になる原因は、発達障害、うつ病、認知症、脳卒中やてんかん、交通事故による脳へのダメージなどさまざまと言われています。スライドにあるのは感覚過敏の一例ですが、ここに書かれている感覚過敏のほとんどに私も該当します。

 

タキザワ:感覚過敏研究所では、そういった感覚過敏の課題に対して取り組まれているんですね。

加藤:そうですね。感覚過敏の課題解決を目指して私たちが運営しているアパレルブランド「KANKAKU FACTORY」についてお話させてください。
触覚過敏の方々が抱える服の悩みの一つとして、服についているラベルや縫い目が痛いと感じることが挙げられます。一方で、フラットシーマーと呼ばれる縫い目のない服は、糸が肌に触れてしまうため、肌着やTシャツを着ると糸が気になってしまいます。また、接着剤や熱で素材を接合するため、つなぎ目部分が固くて痛いです。他にも、肌に合う生地やおしゃれな服がないことや、靴下・ストッキングが履けない悩みもあります。
そこで、触覚過敏の人に優しい縫い目が外側・タグなしをコンセプトにしたアパレルブランド「KANKAKU FACTORY」を2022年に立ち上げました。中学生時代からアパレルブランドの立ち上げ方や服の作り方を学んだり、繊維商社の方と共に肌触りの良い生地を探したりと、2年くらいかけてようやく実現しました。

 
現在は、Tシャツ、タンクトップ、カームダウンパーカーの3つのアイテムを用意しています。今回はカームダウンパーカーについてご紹介します。
こだわりはたくさんあるのですが、まず縫い目は外側にし、内側は段差をなくしています。縫い目を外側にすると裏返しに着ているのではないかと思われがちなデザインになってしまうため、ファッションとして楽しめるよう、見た目を美しくしています。さらに、リュックやカバンを担いだ時に肩に触れても縫い目が痛く感じないよう、肩のラインも少し後ろに下げました。脇下サイドの縫い目の位置も、少し後ろにしています。表面が滑らかな生地を追求している他、タグをなくし、肌に触れると不快に感じるプリントも首元に触れない場所にしています。
さらに、感覚刺激の多さに疲れた時は情報を遮断してクールダウンできるよう、大きなフードにしている点も特徴的です。私自身も電車の中や移動中に体調が悪くなってきたら、フードをかぶって世界を遮断するようにしています。フードにワイヤーが入っているので、自由に形を整えることができ、頭や頬に触れにくくなっています。また、簡易のマスクとしても機能するデザインとなっており、苦手な匂いがしてきた瞬間にガードすることもできます。

 

タキザワ:加藤さん自身の当事者としての経験から、さまざまなこだわりが詰まったデザインが生まれたんですね。最初に服を開発したのは、日常生活で一番体に触れる重要なアイテムだったからですか?

加藤:そうですね。日常生活において服は必要なものですし、なにより私自身が服を着れなくて、困っていたことも大きかったです。小学生から中学生にかけて肌着だけで過ごしていたのですが、新しい服を買ってきても着ることができず、すごくボロボロな状態でした。

タキザワ:どのように当事者の方々を巻き込みながら商品やサービスを開発されているんですか。

加藤:現在「かびんの森」というコミュニティを運営しています。当事者と家族が無料で参加でき、約2,000人のメンバーがいます。感覚過敏に関することや、学校・職場での困り事など、当事者における日々の困りごとをチャットツール内で共有しています。

タキザワ:2,000人のコミュニティがあることは、大きな価値ですね。感覚過敏に関するコミュニティや相談先が少ないからこそ、いろんな可能性を秘めていると思います。クールダウンできる大きなフードやマスクモードは、私もほしいと思いました。

加藤:新型コロナウイルスが流行していた時期に開発したのでマスクモードを用意したのですが、冬に風をしのぐためのネックウォーマー代わりとしても使うことができます。
感覚過敏以外の方にもぜひ使ってほしいですし、それこそがインクルーシブデザインを取り入れたファッションだと思っています。

 

 

感覚刺激から身を守るカームダウンスペース

タキザワ:最近、取り組んでいる活動についても教えてください。

加藤:カームダウンスペースについてお話ししたいと思います。カームダウンスペースとは、音や光などの感覚刺激が苦手な発達障害や知的障害、精神疾患のある方が、心や体を落ち着かせられる休憩所のことです。
東京2020オリンピックのアクセシビリティに関する取り組みとしてカームダウンスペースが提案され、競技会場に専用ルームが用意されました。同時にJIS規格のピクトグラムも作成されました。成田国際空港にもカームダウンスペースが設置され、その取り組みは全国の空港に広がっています。

 
さらに最近では、市役所や駅、博物館などでの導入事例も出てきました。サッカースタジアムを中心としたスポーツ施設では、音や光を気にすることなく観戦できるセンサリールームの導入が広がっています。
大阪・関西万博では、万博提供以外にも、企業や海外などのパビリオン独自のカームダウンスペースも用意され、その数は40カ所以上に上ります。

 

カームダウンスペースの設置には、4つのポイントがあります。

①人の視線を気にせず休めるか?
②遮音できているか?
③遮光できているか?(外からの音/中からの音)
④やさしい素材か?(暴れて叩くことがあっても痛くないか?)

理想はこの4つすべてを満たすことですが、現実的には難しいため、施設担当者と優先順位を話し合うことが大切です。カームダウンスペースの特徴についてご紹介します。
大型のカームダウンスペースは、消防法の適用を回避するため、天井が開いているケースがほとんどです。スライドのカームダウンスペースには天井があるので遮光もできます。
続いて、テントです。天井があるので遮光はできますが、残念ながら減音はあまり期待できません。ポップアップテントのため、イベント時に利用されるケースが多いです。また、パーテーションでカームダウンスペースを設ける施設も増えてきていますが、天井から照明の光が入りやすく、注意が必要です。
カームダウンスペースは、単に空間を用意すれば良いものではなく、カームダウンスペースのある空間とその周辺の空間すべての環境調整をする必要があります。どんなボックスを買うかよりも、どこにどんなスペースをどのように用意し、運用するかが重要で、総合的なインクルーシブデザインの考え方が必要です。

タキザワ:カームダウンスペースを必要としてる方が適切に使い続けられるような運用も必要なんですね。

加藤:そうですね。ただ、利用率で運用改善を図ることは、必ずしも正しいとは言えません。大阪・関西万博もそうですが、カームダウンスペースがあることで「何かあっても大丈夫かもしれない」と安心材料につながり、外出するきっかけにもなります。

タキザワ:なるほど。新しくカームダウンスペースを設置するだけでなく、今ある休憩所の一部に、カームダウンスペースのような役割を果たす機能が備わっていると、特別扱いされずに社会実装されていくのかなという気がしました。もちろん、実現にあたっては、社会の理解を得ることも必要かもしれませんが。

加藤:そうですね。やはり特定の方だけが利用するものと認知されてしまうと、カームダウンスペースを利用することへの抵抗が生まれてしまうと思います。誰もが使えることは、やはり重要ですね。

 

 

センサリーマップを活用するみんながハッピーになるには?

タキザワ:ここからは壁打ちのコーナーに行きたいと思います。タキザワと壁打ちしたいお題を教えてください。

加藤:2025年5月に、感覚過敏を抱える人々の外出や移動を支援する地図サービス「Calmspot」をリリースしました。音や光、におい、人混みなど刺激のある場所や、静かで落ち着ける場所の情報を地図上で可視化するセンサリーマップです。
登録は無料で、感覚過敏の方に限らず、誰でも感覚に関する口コミを投稿・閲覧できます。
刺激の多い場所や少ない場所がアイコンで表示され、自分にあった場所を事前に把握して行動計画を立てられます。

 

センサリーマップの活用により、感覚過敏など環境による刺激が原因で、外出が困難だった人の外出機会の後押しにつなげたり、社会全体のセンサリーアクセシビリティを向上させたりすることが最大の目的です。
施設担当者やまちづくりをしている人にとっても環境を考える良い機会になりますし、タバコの匂いが苦手な人や休憩場所を探してる人など感覚過敏を抱える人以外にも使っていただけるサービスになっています。

ただ、「まぶしい」「さわがしい」「においがある」と口コミを投稿することで感覚過敏当事者にとっては有益な情報になる一方で、投稿された施設やお店にとっては必ずしもポジティブにとらえているわけではありません。
施設内の環境調査をしたり、感覚過敏の人が困っているポイントを教えてもらうことで、施設やお店の改善につながるから知りたい一方で、ネガティブな口コミを不特定多数の方に見られることはあまり好ましくないというお声をいただくことがあります。
投稿する側だけでなく、投稿されたお店や施設にとってもハッピーになれるような仕組みを作りたく、そのためのアイデアをいただけたら嬉しいです。

 

タキザワ:難しいお題ですね。お互いがハッピーになれる状態が理想ですが、感覚過敏に対する社会の理解が深まっていない中で、いきなりその状態を目指すことは難しいと思います。
ファーストステップとしては、本当に困っている人に必要な情報を届けることにフォーカスすること。クローズドで運用し、感覚過敏に対する社会の認知が広まってきたら表現をチューニングしながら変えていくことが、戦略として大事な気はしますね。
あとは「まぶしい」「さわがしい」といった言葉も、電球やスピーカーなどのアイコンにすればそこまで気にならないですね。ネガティブな情報をそのまま伝えるのではなく、UIで見せ方を工夫することも大事かなと思いますね。

加藤:例えば「さわがしい」という表現を「にぎやか」といった名前、もしくはそれらを想起させるアイコンにすることによって、ユーザーの口コミは変わると思いますか。

タキザワ:感覚過敏を抱える人々をターゲットユーザーとするならば、彼らに届く表現にしないと意味がないと思います。
みんなにとって有益な情報が得られるサービスにしてしまうと、さらに表現が柔らかくなってしまう可能性があるので、適切なターゲットユーザーを絞ることが大事な気がします。
もちろん、みんなが使えるサービスを急にクローズドなものにするには大きな変更が必要だと思います。だからこそ、ビジョンやその達成に向けたプロセスを整理し、ユーザーに説明することで納得いただけると思います。
本当は、施設やお店側にも当事者の方がいたり、障害者雇用で感覚過敏当事者が働いたりして、そういった方々を巻き込みながら一緒に取り組んでいけると理想かもしれないですね。

加藤:確かに。これまで私が引き受けていた講演会や取材の依頼も、お声がけいただいた方のお子さんが感覚過敏という人が結構多くて。企業の中に感覚過敏の当事者の方がいることは重要なのかなと感じます。難しいテーマでしたが、ありがとうございます。

タキザワ:では、最後に今後の活動について教えてください。

加藤:私たちが目指しているゴールは、感覚過敏の根本解決です。そのための手法はさまざまにあると思うのですが、「感覚過敏」という言葉が要らないくらい、お互いの感覚を個性として認め合えるような社会にしていきたいと思っています。
そのためには、テクノロジーの活用や多様性の認知の広がりなど、まだまだやるべきことはたくさんあると感じます。
以前よりも感覚過敏という言葉を知っていただく機会が増えましたし、カームダウンスペースによって、バリアフリーの中に感覚過敏という言葉が含まれるようになってきたり、いろんな企業が注目し始めたりしています。ようやく一歩進めたかなと思っています。
これからも、五感に優しい空間を作るために、「1ミリの安心から100キロの自由へ。」というコンセプトのもと、いま手がけているサービスを広げていきたいです。

 

タキザワ:まだまだ若いですし、今後にも期待しています。本日のゲストは、感覚過敏研究 所長の加藤路瑛さんでした。ありがとうございました!

加藤:ありがとうございました!

 

 

PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel
https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign

INCLUSIVE DESIGN Talk|感覚過敏研究所 加藤路瑛(前編)