INCLUSIVE DESIGN Talk|フェリシモ オールライト研究所 筧麻子
インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKS タキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回は、株式会社フェリシモ オールライト研究所 プロジェクトリーダーの筧麻子さんにお越しいただきました。オールライト研究所が立ち上がった背景や商品開発の裏側について伺いました。
そのままが、たのしい暮らし。
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タキザワ:まずは自己紹介をお願いします。
筧:フェリシモ オールライト研究所 プロジェクトリーダーの筧と申します。2006年にフェリシモに入社し、情報システム領域で働く傍ら、2011年よりオールライト研究所に参加しました。
フェリシモにはたくさんの商品があるのですが、私のお気に入りはメッシュ素材で涼しくて軽い「吸汗速乾・UVカットSO!MESH」シリーズのお洋服です。2025年の夏は、こればかり着ていました。
ほかにも、片手で「着られる、つけられる、はける」にこだわった「one hand magic」では靴紐がほどけないシューズを1足履き潰してしまって、2足目も持っております。
タキザワ:フェリシモさんのご紹介ならびに、オールライト研究所について教えてください。
筧:フェリシモは「ともにしあわせになるしあわせ」をコアバリューに掲げ、ファッションや雑貨、食品などのオリジナル商品を、カタログやウェブなどを通じて販売している会社です。1965年5月8日に創立し、2025年で60周年を迎えました。
フェリシモが目指す事業領域は、企業活動を維持するための「事業性」、私たちならではのユニークさや工夫を取り入れる「独創性」、社会全体の「ともにしあわせになるしあわせ」を増やすための「社会性」の3つが重なり合うところです。その取り組みの一つとして、オールライト研究所があります。
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筧:阪神・淡路大震災が起きた1995年に、フェリシモは創業の地・大阪から神戸に移転しました。崩壊した建物を直すことは私たちにはできないけれども、人の心を癒したり、何か一緒に考えたりすることはできるかもしれない。そうした考えをきっかけに神戸学校という場を設け、トークライブが始まりました。2021年4月には「マイノリティデザイン 弱さを生かせる社会をつくろう」の著書である澤田智洋さんがゲストとして登壇。その講演の内容や澤田さんの想いに共感した参加者が「一緒に何かできないか」と考え、オールライト研究所が立ち上がりました。
オールライト研究所は「そのままでたのしい、そのままがたのしい暮らし」をみなさまと一緒に作り出すことをコンセプトに掲げています。「よわさや苦手やコンプレックスに悩むのは、そろそろ終わりにしましょう。足りないのは、あなたがそのままでたのしく暮らせるための、社会の工夫。」という澤田さんの言葉のとおり、社会の工夫を一緒に研究していきたいという想いで商品開発に取り組んでいます。
タキザワ:どのような方々に向けた商品を開発されているんですか?
筧:日々の生活の中で本当に困りごとを抱えている方だけでなく、間口を広げて「これがあったら便利だな」と思っていただけるような方々も視野に入れています。私たちが手掛ける商品を購入してもらい、いいなと思ってもらえる方を増やしていきたいです。
タキザワ:本当に困りごとを抱えている方に特化するのではなく、間口を広げて多くの方に商品を届けようとするのは面白いアプローチですね。「オールライト研究所」という名前に決まった理由を教えてください。
筧:「そのままでいい」「大丈夫」という意味を持つオールライトという単語はすごくいいね、とメンバー同士で話していました。「That’s alright」という言葉があるように、オールライトはゆるく受け入れてくれる感じがしますよね。
また私たちは最初から100点のものが作れるとは思っていなくて。いろいろな研究が必要だと思い、「研究所」もつけました。
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表裏前後を気にせずに着られるお洋服
タキザワ:現在展開されている商品について教えてください。
筧:2つのラインナップを展開しており、1つずつご紹します。
1つ目は「裏表のない世界」です。裏表前後のないTシャツやパンツ、靴下を展開しています。商品開発に協力してくださったのは、写真左の白杖を持った方と、そのお隣の全盲のご夫婦、筋ジストロフィーという疾患をお持ちの電動車いすユーザーの方。他にも、視覚障害の方や知的障害のお子様をお持ちの方にもお話を聞きました。
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筧:この4枚の写真が並んだそれぞれのお洋服は、前後・裏表を変えて撮影したものです。オールライト研究所の「オールライト(大丈夫ですよ)」のとおり、前後・裏表どちらで着ても大丈夫です。
裏表・前後のない靴下は、凸凹のある編み方で伸縮性があり、洗濯が終わったら外側を表にして履いていただけます。これらの商品を開発するだけでも1年近くかかりましたね。
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タキザワ:「裏表がない世界」というコンセプトは最初からある程度決まっていて、製品化するのに一番時間がかかったんですか?
筧:そうですね。最初はオールライト研究所として何ができるのかをスタッフみんなで考え、カレーライスが飛んでも目立たないTシャツや趣味がないことに対するコンプレックスを解決するサービスなど、いろいろなアイデアが出てきましたね。
ファッションであれば、私たちだからこそできることがあるかもしれないと考え、裏表前後のない靴下などを思いつきました。裏表前後のない靴下は、フェリシモで20年以上プランナーを務める方が開発したのですが、プランナー人生で1、2番目に難しかったと言っていました。
タキザワ:障害当事者とは、どのように関わりながら開発していきましたか?
筧:「こういう商品はほしいですか」とヒアリングするところからスタートしました。私たちが考えているサンプルをお送りして、見てイメージしてもらったり、実際に試着してもらって感想を聞いたりしました。
お洋服を扱っている私たちとしては、裏表や前後で違うように見えるリバーシブルの方が着られる方にとってお得だと思っていたのですが、障害当事者であるリードユーザーに話を聞くと「いや、違ったら意味がない」とおっしゃっていて。「表は無地で、裏はボーダーのトップスはどうですか」と聞いてみると「パンツやスカートの組み合わせを考えないといけないですよね」と返ってきて、同じことに価値があるのだとスタッフ一同、アハ体験したかのように驚き納得しました。
タキザワ:実際に作りながら発見があり、今の商品につながったんですね。面白い。これまでの商品開発の過程で、印象に残っているリードユーザーとのエピソードはありますか?
筧:すごく嬉しかったのは、大胡田さんのエピソードです。大胡田さんは日本で3人目の全盲の弁護士として有名な方で、普段はフォーマルな格好をされているんですよ。裏表のない世界が展開しているお洋服はカジュアルラインが多く、「コンセプトは素敵だけれど、僕が着るかな」と大胡田さんはおっしゃっていて。「とりあえず2〜3週間使ってみてください」とお洋服のサンプルをお送りしました。
そうしたら玄関にそのお洋服を置き、帰宅後に着替えてくれたようで、「着替える時に裏表前後がないのは楽でいいですね」と言ってくださったんですよ。着ないかもしれないと言っていたのに、着てくださって嬉しかったですね。
タキザワ:素敵ですね。実際に体験してみると、想定とは違った新しい発見がありますよね。
今回のプロジェクトで、参考にしたものやヒントになった商品はありますか。
筧:障害のある方を応援する商品を企画する「ディック・ブルーナ バリアフリープロジェクト」という活動が社内にあり、裏表前後のない靴下は車椅子のお子さんのために開発された靴下を参考にしました。
他にも、裏表前後のないパンツは、既存の商品から少し形を変えて作れないかというところからスタートしました。
タキザワ:フェリシモさんが手掛けてきた商品の中にも、すでに工夫があったり、アイデアの種が眠っているんですね。
片手で自分に魔法をかける「one hand magic」
タキザワ:もう1つのラインナップについても教えてください。
筧:2024年10月にリリースした「one hand magic」についてご紹介します。
「お出かけに着ていける服があればいいのに」「フォーマルな洋服は脱ぎ着がしにくい」といったお声をもとに、靴から上着までお出かけ時のラインナップを作れないかとチャレンジしました。
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筧:one hand magicでは、朝が忙しい子育て中のお母さんや手先が動かしづらくなってきたシニアの方を対象としています。また、身体を自由に動かしにくい片麻痺や筋ジストロフィーの方が商品を使えるようヒアリングを重ね、サンプルを試してもらって開発しています。
タキザワ:片手で身につけられるお洋服、いいですね。実際に利用された方からの反応はいかがですか?
筧:モニターとしてヒアリングにご協力いただいている認知症のある方がいらっしゃるのですが、デイケアにネックカフをつけていくと「可愛い」「おしゃれ」とみんなに褒められ、すごく嬉しそうにしていました。実は、結婚してからずっとアクセサリーはつけられていなかった方なのですが、気軽だからつけてみようかなと手に取っていただいて。「ちょっと素敵になった自分が嬉しくなる」という言葉を聞いて「one hand magicだ」と嬉しくなりました。
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タキザワ:いいですね。プロジェクトを進めていく中で、最もピンチだった瞬間はありますか?
筧:one hand magicというブランド名を決める時が一番困りました。「one hand magicって、両手で使える人も自分事として感じられるのかな」という問いを社内のメンバーからいただいたのですが、それに対する返答がうまくできなかったんです。澤田さんは「ファッションとしてすごく響きの良い名前で、意味も素敵だから推したい」と言ってくださったのですが、片手だけ使える方・両手を使える方のどちらにも使いやすいと伝えられるようにするための落としどころがうまく見つけられなかったですね。
オールライト研究所をPRし、取り組みの輪を広げたい
タキザワ:ここからは、タキザワとの壁打ちのコーナーにいきたいと思います。筧さん、タキザワと壁打ちしたいお題やテーマはありますか。
筧:取材やメディア掲載による認知向上には取り組んでいるのですが、一般の方には私たちがこういったインクルーシブな商品を展開していることは、まだまだ知られていないと思います。
展示会に出ると「フェリシモさん、こんなことやってたんですか」「めっちゃ便利ですね」といったお声をいただきます。どうやったらより多くの方に知っていただけるか、困りごとを抱えている方々にアプローチできるのか。これらの課題についてご相談したいです。
タキザワ:まずコアな対象者である片麻痺の方や高齢者、身体障害者にDMを送る手がありますよね。もしくは、オールライト研究所の研究員のようなコミュニティを作って、アイデア募集のワークショップを告知したり、いろんな商品を体験できるイベントを開催したりと、コアとなる対象者を巻き込んでいくアプローチも良さそうですね。
筧:たしかに、その通りですね。「活動に参加したいです」と言ってくださる方はたまにいらっしゃるんですよ。ただ立て付けがないので「ありがとうございます」と言って終わることが多かったんです。コミュニティを作って、一緒に手伝ってもらうのがいいかもしれないですね。
ただ、コミュニティ運営となると、誰が、どれくらいの頻度で運営するかという問題もあります。作ったのはいいけれど活発化していないことは避けたいと思って、なかなか手が出せずにいます。
タキザワ:そうですね。対面イベントやオンラインミーティング、アンケート、インタビューなど運営の負担やコストはあまりかからないけれど、場所を問わず参加しやすくて、意見が集まる仕組みは有効かもしれません。
あとは、フェリシモさん社内へのPRも大事な気がしていて。社内におけるオールライト研究所のプレゼンスを上げていくことで、ほかの商品にもオールライト研究所のノウハウが活かされたり、メンバーになりたいと広がってくこともあったりする気がしています。
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筧:弊社には、たくさんのファッションブランドがありますし、毎シーズンたくさんの商品が出ています。こんな方々に便利かもと思って作ってみると、全然違う属性の方にとって便利なこともあって。そういった新たな発見も面白がりながら一緒に開発できたらいいなと思っています。今日はいくつかのヒントをいただき、ありがとうございました。
タキザワ:楽しみにしております。最後に、オールライト研究所は5年後にどうなっていると思いますか?
筧:フェリシモとオールライト研究所のコラボ商品が増えていくと思います。オールライト研究所に属していないけれど、私たちの取り組みに興味を持っているプランナーが何人かいるので、一緒に育てていきたいです。
私たちの取り組みを社内に話すと「あれ、その工夫は私たちもやっているよ」というお声をいただくこともあります。オールライトと言える商品のピックアップを進めることはもちろん、ゆくゆくは新しい商品も作っていきたいです。
また2025年9月に開催した、障害があってもなくても関係なくトークが楽しめる「スナックAllright」という交流活動もすごく面白いと思っているので、今後もその活動が広がっていくといいなと思っています。
タキザワ:今後の活動も楽しみにしております。本日のゲストは、フェリシモ オールライト研究所 プロジェクトリーダーの筧麻子さんでした。ありがとうございました!
筧:ありがとうございました!
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PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel
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INCLUSIVE DESIGN Talk|フェリシモ オールライト研究所 筧麻子