INCLUSIVE DESIGN Talk|シブヤフォント・フクフクプラス 磯村歩
インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKS タキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回は、一般社団法人シブヤフォント、株式会社フクフクプラス 共同代表の磯村歩さんにお越しいただきました。共創を起点に、障害のある方との社会接点を創出している磯村さんと、共創のあるべき姿について対話しました。
共創の構造で、支援を反転する。
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“支援者”と“被支援者”という役割の前提を崩す
タキザワ:まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
磯村:一般社団法人シブヤフォントと株式会社フクフクプラスで活動しております、磯村です。富士フイルムのデザイナーとして勤めた後、「共創」を軸に、障害のある人と社会との接点を創出するための活動を行っています。
タキザワ:では、プレゼンテーションをお願いします。
磯村:ビジネスやデザインの世界では、「共創」という言葉をよく見かけます。同じ空間で一緒にものづくりをすることも共創の一つですが、今日は私が現在の活動を始めるきっかけとなった原体験を振り返りながら、単に一緒に作るだけではない、「互いにバリューを分かち合う共創の構造」についてお話ししたいと思います。
私が富士フイルムでユニバーサルデザインを研究していた頃、視覚障害のある方が「写ルンです」を使っていることを知りました。理由を尋ねると、「旅行先の様子を家族に見せるために必要なんだ。『写ルンです』は唯一、触覚と音だけで操作がわかるカメラだから」とおっしゃったんです。
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私は、視覚障害のある方の困りごとを聞いて支援しようと思っていたのですが、逆に新しい使い方を教わったことで、支援を受ける側にまわった感覚にとらわれました。そこから今の私の活動の原点にもつながる、支援する・されるという立場が「反転」する構造に、私は大きな魅力を感じました。
そういった支援の反転に関する事例を探す中で出会ったのが、視覚障害のある方と一緒にアートを観る経験です。目の見える人がアートをしっかり観察し、視覚障害のある方に言葉で伝えるというものですが、しっかりと観察しなければ言語化ができない。
例えば「モナリザ」を言葉で説明しようとした途端、私たちは「背景には何があるか」「重ねている手は左手が上か、右手が上か」「表情は笑っているのか、怒っているのか」と、強制的に隅々まで観察せざるを得なくなります。結果として、説明する側も「モナリザってこんな風に描かれていたんだ」と再解釈でき、視覚障害のある方に対して「気づかせてくれてありがとう」という状態になります。
さらに、見えない方にとっても、説明する人の解釈によってアートの楽しみ方が変わります。他者によって自分の認識が更新され、それがさらに他者の認識を更新していく。支援が行ったり来たりする構造がアート鑑賞にはあります。
このように、二者間においてお互いのバリューを分かち合いながら関係性が変化し、役割が循環していくことこそが「共創の構造」だと私は考えています。
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タキザワ:「共創」は素晴らしい取り組みですし、いま注目されているあり方だと思います。その一方で、障害のあるリードユーザーの方とプロジェクトに取り組む際、社会構造上、どうしても「支援しなければいけない対象」というバイアスが私たちには刷り込まれていますよね。
「共創」を実現するためには、まずはその固定化された「支援者と被支援者」という構造を壊すためのマインドセットの醸成が必要だと思っています。そこを飛ばして「共創は素晴らしいですよ」と説いても理解されにくい。だからこそ、前段階のデザインを丁寧に行うことが不可欠ですよね。
磯村:まさしくその通りですね。インクルーシブデザインにおいて「リードユーザー」という言葉を使いますが、本来であればユーザーが製品開発をリードするというのは珍しいことです。しかし、あえてそう呼ぶのは、「障害のある方を支援する」のではなく「障害のある方に製品開発をリードしてもらう」という支援の逆転を構造的に表出させているからだと思います。
フラットな関係性が、共創へと導く
磯村:タキザワさん、もし「写ルンです」の設計を担当していたとして、視覚障害のある方の使い方を最初から想定して設計することはできたと思いますか?
タキザワ:いや、無理でしょうね。ただ、「カメラ」という形態にとらわれず、「この瞬間の価値を残し、多くの人に伝える手段」という広義のテーマで視覚障害のあるリードユーザーと共創すれば、新しいカメラ的なものを作ることは十分可能だと思います。
私たちは「カメラとはこういうものだ」という固定観念に縛られていますが、リードユーザーの方々は、そうした前提さえも壊してくれる存在だと感じます。
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磯村:なるほど。ゼロベースで「撮る」という行為の可能性について最初からリードユーザーと対話を重ねていれば、新たな開発が実現できたのかもしれないですね。
タキザワ:写真は映像の一部を切り取った情報に過ぎませんが、視覚障害のある方にとっては、その場の空気感や会話、匂いなども記録の一部だと思うんです。別の付加価値を加えられれば、それは従来の静止画を超えた写真のような何かが生まれるかもしれません。
障害のある方が製品を使うことで、例えば必要不可欠な機能が何かわかったり、洗練されたインターフェイスへと変わったりするかもしれない。結果的に、みんなが使いやすくなる、という共創の仕方もあるかも知れませんね。
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先ほどのアート鑑賞の事例も同じ構造だと思います。最初は「視覚障害の方を支援しなきゃ」というマインドで参加するわけですが、いざ説明しようとすると、自分自身も気づいていなかった「モナリザ」の魅力に気づける。この導線が非常に秀逸ですよね。
人は最初、「支援しなきゃ」という動機のほうが動きやすいので、入り口はそれで良いと思うんです。ただ、そのプロセスの中で結果的に「自分自身の価値や気づき」につながるような構造がデザインされていれば、「支援」から「共創」へのスムーズな移行ができるのかもしれませんね。
磯村:他にも、共創にはフラットな関係性が大事だと感じます。異なる年代が集まって共創する際に、例えばアートのような介在物があることで、フラットな関係性が築けるようになる。そういった共創の構造を踏まえることは、製品やサービスの開発方法を設計する上で重要だと思います。
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タキザワ:ワークショップを実施すると、障害のある方に対して「何か困りごとはありますか?」と質問攻めにしてしまいがちですよね。「困っているはずだ」という決めつけが前提にあるからこそ起こりうることだと思います。
そのバイアスを崩すために、視覚障害のある方が健常者に聞いてみたい素朴な疑問を質問し、健常者が回答するというワークショップを実施したことがあります。 面白かったのは、生まれつき全盲の女子大生が「見えているのになんでみんな絵が下手なんですか?」と聞いたことです。「私は見えないけれど、見えているのになぜ描けないの?」という素朴な問いでした。他にも、印象に残っているのは「青空を教えてください」と言われたこと。無意識に「青くて……」と語り始めてから「空って、青くないな。無意識にそう思っているだけなのだ」と気づいたんです。
こうした揺さぶりをかける問いやアートのようなテーマを取り入れることは、フラットな共創を実現する上で効果的なやり方かもしれないですね。
アートを通じて「支援の反転」を起こす
タキザワ:磯村さんが取り組んでいるフクフクプラスとシブヤフォントでは、どのような共創が生まれているのでしょうか?
磯村:フクフクプラスでは、障害のある方のアート作品を扱うAble Art Companyと契約し、アートレンタルや対話型アート鑑賞などの法人向け事業を展開しています。
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障害のある方のアート作品は、一つひとつ手書きで制作された、色鮮やかで柔らかい雰囲気のものが多いのが特徴です。以前、オフィスに名画と障害のある方のアート作品を飾って比較したところ、名画は重々しい感じがするといった反応があった一方で、障害のある方のアート作品は「空気が明るくなった」「会話が生まれた」というポジティブな反応が多く見られました。
私たちはこれを、社員のリラックスやチームビルディングのためのツールとして提供しています。さらに、ファシリテーターの問いに従いながら障害のある方のアート作品を鑑賞する対話型アート鑑賞も実施しました。例えば「ピカソ」の作品と分かると、美術に詳しくないからしゃべれない、といった不安が生まれてしまいますが、障害のある方のアート作品は、いい意味で匿名性があるので、社員同士で対話を弾ませやすい。
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企業が障害のある方を支援するのではなく、「チームビルディングや企業の成長のために障害のある方のアートが必要だ」という支援の反転がここで起こっています。
また、こういった評判をアーティストご本人に伝えたところ、「自分は支えられる存在だと思っていたけれど、価値を生む存在なんだ」という誇りや自己肯定感が生まれました。この支援の反転の繰り返しこそが、共創のあるべき姿だと考えています。
シブヤフォントは、障害のある方の原画を桑沢デザイン研究所にいるデザイン専攻の学生がフォントやパターンにするプロジェクトです。単にスキャンしてデータ化するのではなく、学生と障害のある方が密に関わり合うプロセスを重視しています。
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学生は、桑沢デザイン研究所の授業で「障害のある方と友達になってきなさい」という問いかけからスタートします。障害のある方は、これまで絵筆を持ったことのない、あるいは絵を描くことが難しい方がほとんどです。
彼らが作ったアートを学生が見て、例えば「タツノオトシゴに見える」と可能性を見出し、パターン化していく。商品化を通して、親御さんも、子どもの成長を感じ、子育ての自己肯定感につながっていきます。

NHKのドキュメンタリーでも紹介されましたが、ある学生が3色のインクをパレット代わりの紙皿に出して障害のある方に渡した際、彼はそれをぐるぐると混ぜてしまいました。学生は「混ぜちゃった」と困るのではなく、「混ぜる行為そのものをアートにしよう」と捉え直し、その円をパターン化しました。 それらが農林水産省の農福連携の柄や、隈研吾さんが設計したコミュニティセンターの内装に採用されたのです。
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健常者であるお姉さんが「弟は私の自慢なんです」と誇らしげに語る横で、お母様が号泣されていました。「娘に不憫な思いをさせているのではないか」という長年の心の重荷が、社会に認められたという事実によって解き放たれた瞬間でした。
共創の構造とは、支援が一方通行ではなく、循環し続ける関係を生み出せる状態だと考えています。そこに二者間だけでなく、社会が加わることで、その輪はどんどん広がっていく。
タキザワ: 制作プロセスを通じて、偶然性が表現になりうる面白さもありますし、それらが商業化されて価値に変わって社会に広がっていくという共創の構造がデザインされているのは素晴らしいですね。
磯村:シブヤフォントを開発する上で、なぜ学生でなければいけないかという問いがありました。たしかに商品開発を考えれば、プロのデザイナーの方が勝るでしょう。しかし、プロであるがゆえに、フラットな関係性でものづくりがしづらい。
一方で、柔軟性に富み、偶発性を受容できる学生には、この共創関係においては大きな強みに変わる。社会に出れば、いろんなアーティストと共創していく必要がある。それを学校教育の中で再現すべきではないかと考え、生まれたのがシブヤフォントです。
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タキザワ:なるほど。経験豊富なデザイナーほど「こうあるべき」という成功体験が邪魔をして、共創を難しくしてしまう側面があるのかもしれませんね。
やはりうまく行っているプロジェクトは、共創の構造が絶妙にデザインされていますよね。「障害のある方と友達になってきなさい」という問いかけなど、ちょっとした工夫の有無によって、だいぶ異なる気がします。
磯村:支援の反転を起こすためには、あえてルールを設けないことが必要だと思います。
企業の方から「障害のある方と交流する際のマニュアルはありますか?」と聞かれるのですが、マニュアルを読んだ途端、人は森を見て木を見ずの状態になってしまいます。
ルールを適用したとたんに、支援の反転が起こらないように合理的配慮をしなければいけないと思ってしまうかもしれない。だから私たちは、「マニュアルは不要で、一緒に楽しんでください」と伝えています。仲良くなろうとするプロセスの中にこそ、支援の反転が起こるきっかけがあると思っています。
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タキザワ:素晴らしいですね。弊社でも「参考になる本はありますか?」と聞かれることがあります。そうしたバイアスや心理的ハードルが生まれるのもわかりますが、「楽しみましょう」としか言いません。
「共創の構造」を日本全国に広げたい
タキザワ:フクフクプラスやシブヤフォントで築いた共創の構造を、今後さらに展開していく構想はありますか?
磯村: はい。シブヤフォントで培ったナレッジを全国にシェアする「ご当地フォント」というプロジェクトを始めています。
毎年希望するチームを募り、メソッドをお伝えすることで、札幌、横浜、世田谷など各地でそれぞれの地域名を冠したプロジェクトが動き出しています。支援の反転を渋谷区に閉ざすのではなく、全国に広げていきたいです。
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タキザワ: 素晴らしいですね。
磯村: もちろん、共創の構造を取り入れた上で、事業としてどう成立させるかという課題はあります。大量生産・大量消費のモデルとは異なる、ソーシャル分野ならではの互いにWin-Winでありながらキャッシュを生み出していく共創構造をどう維持していくか。そこは、まだチャレンジの段階です。
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タキザワ:最後に、今日の感想をお願いします。
磯村: 普段は事例を一方的に紹介することが多いのですが、今日のタキザワさんからいただいた場は、共創の構造そのもので、非常に楽しかったです。
これからも共創を大切に、支援の反転・再反転がぐるぐると回り続ける無限のサークルを日本全国に広げていきたい。その意思がより明確になりました。今年もこの構造づくりを、日本全国にいるメンバーと共に取り組んでいこうと思います。
タキザワ: 本日はありがとうございました!
PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel
https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign
INCLUSIVE DESIGN Talk|シブヤフォント・フクフクプラス 磯村歩



