INCLUSIVE DESIGN Talk|NPO法人アクセシブル・ラボ 大塚訓平

INCLUSIVE DESIGN TALK ハードのバリアを、ハートで解決。NPO法人アクセシブル・ラボ 大塚訓平

インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKSタキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回は車椅子当事者として、バリアフリーやアクセシブルな環境づくりに注力している、NPO法人アクセシブル・ラボ 代表理事の大塚訓平さんが登場。NPOの設立に至った経緯や、全日本空輸やトヨタなどとの取り組み、今後の展望などを伺いました。

逆境を“強み”に変えて。「みんなが笑顔で楽しく外出できる社会」を実現する

Zoom画面。PLAYWORKS タキザワ、アクセシブル・ラボ大塚さんが並んでいる。

“車椅子ユーザー”であることを武器に、NPO設立

 

タキザワ:まずは、NPO法人アクセシブル・ラボについて紹介をお願いします。

大塚:NPO法人アクセシブル・ラボは「みんなが笑顔で楽しく外出できる社会づくり」をミッションに掲げ、情報提供事業、コンサルティング事業、コミュニケーション事業を展開しています。私自身は、2009年に事故に遭い、脊髄を損傷しました。車椅子ユーザーになったことで様々な課題にぶつかり、あらゆる場所に移動するハード面と声がけや配慮といったソフト面のバリアフリーがいかに大切かを実感しました。移動がストレスフリーでアクセシブルな環境を実現できれば、車椅子ユーザーの外出機会が増え、経済にもポジティブな影響を与えられるのではないか。企業にとってもバリアフリーに取り組む価値があると思い、2013年にNPO法人アクセシブル・ラボを設立しました。
我々は「ハードのバリアをハートで解消する。」をコンセプトに掲げています。障害は十人十色であり、完璧なバリアフリーを実現することは難しいと思います。だからこそ、障害者や事業者など様々な方と協力し合い、みんなでバリアフリーに取り組んでいくことを目指しています。

 

タキザワ:これまでの実績についても、教えてください。

大塚:NPO法人を設立して最初に担当したのは、全日本空輸の覆面調査でした。実際に飛行機を利用して、どこに課題があるのかをリサーチし、レポートにまとめて提出する仕事です。そのレポートが好評で、Webサイトの文言や映像の制作など、当事者の目線から改善のご提案をさせていただきました。
この仕事を皮切りに、いろんな企業からご相談いただくようになったんです。たとえば、カルビーの協賛で、だれでも楽しめるダンスフィットネス「座・フィットネス」を、運動指導者育成の専門家である秋野典子さんと一緒に作ったり、住宅設備メーカーのLIXILと共に自動で玄関ドアが開く、玄関ドア用電動オープナーシステム「DOAC」を開発したりしました。他にも、シティガイド誌を手掛けるタイムアウト東京と全銀座会がコラボし、弊社監修で「銀座 アクセシブルガイド」を制作しました。車椅子ユーザーはもちろん、高齢者や子ども連れ、大きな荷物を抱えた観光客などを対象に、誰もが快適に楽しめる銀座を紹介する内容となっています。こういったインクルーシブデザインにまつわる様々な取り組みを手掛けています。

 

タキザワ:ありがとうございます。大塚さんご自身について少しお伺いしたいと思います。事故に遭った2009年より以前は、どういった活動をされていたのでしょうか?

大塚:僕が25歳だった2006年に不動産事業を営む株式会社オーリアルを創業しました。その3年後、会社が軌道に乗り始めた矢先、事故に遭ってしまったんです。入院中にベッドの上で「自分の会社は潰したくないけど、これからどうしようかな……」と思いを巡らせている時に、入院している方の不安や不満をヒアリングすることを思いついたんです。そしたら、ものすごく課題の宝庫で(笑)。これらの課題を自分の会社で解決したら良いんじゃないかと思い、ビジネスモデルを50個考えました。

タキザワ:50個も!他のアイデアも見てみたいですね(笑)。突然、車椅子ユーザーになってしまって、障害を受け入れるまでに時間がかかったのではないかと想像します。同時に、逆境をチャンスに変える起業家マインドも強く感じました。

大塚:もちろん「ただでは起き上がらないぞ」という気持ちはあって。僕にとって、この出来事はオイシイとさえ思えたんです。傍から見ると、それまでは28歳の生意気なやつが不動産業にバリバリ取り組んでいるだけの印象でしたが、「車椅子ユーザー」というアイデンティティが僕の中に加わることで、社会からの見方が変わったんです。
メディアの注目を集めやすくなったことはもちろん、パートナー会社からも「訓平くんも来れるように、バリアフリーにしなきゃ」「スロープも必要だね」と言ってくださるようになって。社会にとってもパートナー企業にとっても、良い方向に進んだのではないかなと思います。

 

情熱を持った人と、社会を変えるプロジェクトを

 

タキザワ:これまで担当されてきたお仕事も、大手の案件ばかりですごいですね!最初に担当したのが全日本空輸だったと伺ったのですが、それはどういった経緯で?

大塚:創業メンバーと共にディスカッションをした際、外出で最もハードルが高いのは「飛行機を使った旅行」だよね、という話になりました。そこで先輩経営者の方々に「航空業界の方に対して、こういうことを提案したいんです」と話をしていたら、ある先輩経営者が知り合いに全日本空輸で研修を担当している人がいると教えてくれて。実際に、その方に対してプレゼンテーションをしたら、ありがたいことに「すぐにやりましょう」と言っていただけたんです。

タキザワ:なるほど。そこから覆面調査をされたんですね。

大塚:そうです。僕らだけで覆面調査を実施するのではなく、全日本空輸の担当者にも同行いただきました。僕が不安だと感じた動作をその場で伝えると、納得してくださるんです。課題をまとめたレポートを見て課題を理解してくださり、そこからWebサイトの文言や車椅子ユーザー向けの動画など、当事者に寄り添ったものへと作り変える提案をさせていただきました。

 

タキザワ:たしかに、勝手に覆面調査を実施してレポートを提出するのではなく、担当者と共に当事者の目線で体験することは大事ですね。他の取り組みについても、教えていただけますか。

大塚:トヨタ自動車からの依頼で、移動可能なバリアフリートイレである「モバイルトイレ」1号車・2号車のユーザー評価業務を担当しました。こちらは東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、トヨタ自動車とLIXILが共同開発したモバイルトイレです。1号車、2号車を作ったものの、一般販売に向けてより実用的なものに変化させる必要があったと伺いました。そこで、モバイルトイレを使うであろう高齢者や女性の車椅子ユーザー、障害児用の車椅子であるバギーを使用している障害児など多様な障害者にご参加いただき、ワークショップを開催。利用実態に即したレイアウトや設備内容になっているかについて議論し合いました。
一般販売を目指す3号車の開発にあたり、大きな課題となったのが重量とサイズでした。というのも、1号車、2号車は牽引免許がなければ動かすことができなかったんです。すぐ・どこでも使えることを目指しているのに、災害時に「牽引免許を持っている方はいませんか?」と探すのは現実的ではないですよね。長さ5メートルのモバイルトイレを小さくするために、レイアウトを考えていきました。一番課題となったのが、ユニバーサルシートですね。衣服の着脱やおむつの交換など、大人から子どもまで利用できる大型シートですが、面積が大きく取られてしまうため、設置に苦労しました。

 

タキザワ:1号車、2号車を開発するだけでなく、一般販売を目指していたことも素晴らしい取り組みですね。

大塚:そうですね。トヨタ自動車の担当者とお話して、一般販売の実現に向けてすごく本気を感じたんです。それで、ぜひ関わらせてくださいと承諾しました。

タキザワ:素晴らしいですね。僕もいろんな企業と一緒に仕事をしていると、クライアントが本気かどうか、すごく伝わるなと感じます。本気で実現したいと思っている担当者から依頼があった時は、こちらも本気で向き合わなければと思わせられますね。

大塚:少しおこがましい話ですが、弊社も仕事を引き受ける際に、1人でも情熱を持った担当者がいるかどうかを見るようにしています。多少予算が足りなくても、「社会を変えていきましょう」という志が一致するようであれば、ご一緒したいと思っています。

 

多くの人に知ってほしい「まだまだ知られてないマナー」

 

大塚:もう一つ、トヨタ自動車からの依頼で、車椅子ユーザー用駐車施設の利用マナー向上を目的としたプロジェクト「#まだまだマナー」も監修しました。たとえば、乗降スペース「ゼブラゾーン」が設置されている意味を、ご存知でしょうか? 我々は車のドアを全開にしないと乗り降りできないので、ゼブラゾーンに自転車が置かれてしまったり、斜めに止められてしまったりすると困ってしまいます。施設管理者が適正利用を促すために車椅子ユーザー用駐車場の手前に三角コーンを置く場合もあるのですが、その下に重石が置かれていることもあって。車椅子ユーザーは、一旦車を脇に止め、降りて片手で車椅子を漕ぎながら、もう一方の手で重石を持ち上げなければいけないんです。もう一度乗車し直して駐車するので、手間がかかるだけでなく周囲にも迷惑をかけてしまう可能性があります。
他にも、店舗の入り口に設置されたスロープの傾斜がきつく、登るのが大変なこともあります。そういった車椅子ユーザーの方が外出しやすくなるように知っておきたいマナーをお伝えするために動画を制作しました。

実は、描写の細かい部分にも気を配っていて。たとえば、車椅子の形状ですね。はじめに上がってきた車椅子のイラストを拝見したら、介助用の車椅子になっていたんですね。車に乗って移動する車椅子ユーザーの多くは、スポーティーな車椅子に乗っていることが多く、もう少しスタイリッシュなデザインにできないかとお願いしました。他にも、よく見ると身体障害者が運転していることがわかる四葉マークが車に貼ってあるんです。
こうやって動画を1回見たら終わりではなく、理由を知りながら2回、3回と見ていただくことで、細部に気がついていただくことができる。その結果、一つひとつのマナーを守らなければと思ってもらえたらと考えています。

タキザワ:なるほど。物作りに障害当事者がちゃんと関わることは改めてすごく大事だなと映像からも感じましたね。ありがとうございます。

 

リードユーザーを育成し、さらなる課題解決へ

 

タキザワ:ここからは、タキザワとの壁打ちコーナーに移りたいと思います。壁打ちしたいテーマはありますか?

大塚:ワークショップを開催する時に、リードユーザーの育成や発掘に力を入れなければいけない場面があるんです。それをどうやったらいいか、一緒に考えたいです。

タキザワ:現在、協力いただいているリードユーザーや障害者は、どういった方が多いんですか?

大塚:ボリュームゾーンは30〜40代です。一番若い方だと10代で、高齢な方は70代まで。全部で35名の方に関わっていただいています。以前に僕とお会いしたことのある方はもちろん、SNSで「こういった企業プロジェクトをやります」と告知した際に、知人からご紹介いただいた方も参画されています。

タキザワ:一概に車椅子ユーザーといっても、プロジェクトによって求められる人材も異なりそうですね。リードユーザーを集める上で、これまで意識されていたことはありますか?

大塚:「年齢・性別・障害」の3つのバランスを見ながら、お声がけさせていただいています。先天性の障害を持つ方と健常な状態を経験した上で障害を持った方では、異なる意見が出やすいと思っていて。多様な方が集まったほうが振り幅のある意見が出やすくなるんです。時には極端な意見も出るからこそ、本当のインクルーシブデザインを手掛けられると思っています。

タキザワ:リードユーザーの多様性は重要ですね。

大塚:現状、「あれは使いづらい」と伝えられる方は多い一方で、建設的に「こうすると、もっと使いやすくなるよね」と議論できる方は少ないと感じていて。それは、圧倒的にポジティブ・ネガティブの両方の体験回数が足りていないからだと思っています。
我々は、質の高いコンサルティングやアドバイスをご提供しているので、リードユーザーとして力を発揮できる障害者を育成することも大事だと捉えています。また、できるだけ誠実な仕事を心がけていて、現在関わらせていただいているクライアント企業も1業種1社にこだわっています。

タキザワ:なるほどです。業種1社であれば、クライアント企業が固定されるので、その企業に所属されている障害者をリードユーザーとして育成するのはどうでしょうか? アクセシブル・ラボからリードユーザーを出向させて一緒にプロジェクトに取り組んだり、クライアント企業に所属している障害者をお招きして、アクセシブル・ラボのプロジェクトに参画してもらったりすることもアリですね。

大塚:それはすごくいいですね!

タキザワ:アクセシブル・ラボ監修のリードユーザーが社内にいることは、企業にとっても心強いと思います。

大塚:その結果として「法定雇用率をカバーできるようになりました」といったポジティブな事例が出れば多くの企業に伝播していきますし、社会全体として障害者雇用率が上がれば、すごく嬉しいですね。相談できて良かったです。ありがとうございます!

 

タキザワ:そろそろお時間となりますので、最後に今後の活動について教えてください。

大塚:引き続きインクルーシブデザインを活用し、障害を起点としたサービス開発や課題解決に取り組んでいきたいです。最近では、インクルーシブ公園のプロデュースにも関わりはじめています。みんなの憩いの場になるような、本当の意味でインクルーシブに長けた公園を実現していきたいですね。

タキザワ:これからも応援しています。今日はどうもありがとうございました!

大塚:ありがとうございました!

 

 

PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel

https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign

 

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