COLUMN|障害のある方も、共に楽しめる施設を目指して  サンシャインシティが取り組む合理的配慮

PLAYWORKS株式会社はインクルーシブデザイン・ユニバーサルデザインの豊富な実践経験と、多様な障害者・リードユーザーのコミュニティをもとに「合理的配慮ワークショップ研修」を開発。2024年1月より提供開始しました。「合理的配慮ワークショップ研修」では、2024年4月より事業者に義務化される合理的配慮を、障害のある講師と共に学ぶことで、職場や接客など様々な場面で求められる“合理的配慮の提供”を支援します。
今回は実際に「合理的配慮ワークショップ研修」を実施した、株式会社サンシャインシティ コミュニケーション部の金子さんと植田さんに、「合理的配慮ワークショップ研修」の感想や今後の展望について、PLAYWORKS タキザワが伺いました。

すべての人に「感動体験」を提供すべく、合理的配慮の取り組みをスタート

インタビュー風景。テーブルにサンシャインシティの金子さん植田さん、PLAYWORKS タキザワが向かい合って座っている。

左からPLAYWORKS タキザワ、サンシャインシティ 植田さん、金子さん
 

タキザワ:サンシャインシティが「合理的配慮」を意識するようになったきっかけはなんでしょうか?

金子さん:正直なところ、2021年頃まで「合理的配慮」という言葉自体をよく知らなかったのですが、障害者差別解消法の改正が発表されてからは、強く意識するようになりました。
ただ、それまでもバリアフリーの取り組みは行ってきています。特にバリアフリーに取り組むきっかけになったのが、新型コロナウイルスでした。感染拡大が進んでいた当時、リスクがある中でサンシャインシティに足を運んでくださったお客様に、施設を通じて「満足する」だけでなく「感動する」体験を提供したいという想いが強まったんです。
すべてのお客様に私たちの感動体験をご提供するためには、バリアフリーにもっと目を向けなければならないと考えるようになりました。

タキザワ:バリアフリーを意識するようになってから、どのような取り組みをされてきましたか?

金子さん:最初に取り組んだのが、車いすユーザーをはじめとした、お身体が不自由な方やベビーカーを使う方に向けた「バリアフリー情報サイト」のご提供でした。その他にも、館内がどの程度バリアフリーに対応できているのかを調査しながら、改善できる部分を見つければ、なるべく早急に対処してきました。
コロナ前もお客様の声を受けて、エレベーターやスロープの設置など必要なバリアフリー設備の設置や改善を実施してきました。いま思い返せば、これも合理的配慮の一環でしたね。

 
植田さん:バリアフリーを意識するようになってからは、施設の設備などハード面は改善することができていました。しかしその一方で、スタッフによるお声掛けやご案内など、合理的配慮の中心となるソフト面は、なかなか改善できていなかったんです。

金子さん:サンシャインシティは自社だけでなく多くのテナントが入られている複合施設ということもあり、合理的配慮を考える上で、テナントの協力は必要不可欠です。とはいえ、運営側が慣れない合理的配慮に取り組みながらも、テナントのスタッフの皆さんにもご理解いただき、協力いただけるよう推進していくことに困難さを感じていました。

タキザワ:多くのテナントを抱える複合施設ならではの、難しさがあるわけですね。

植田さん:テナントへの働きかけや、スタッフの入れ替わりへの対応などには、日々難しさを感じています。お客様の声に真摯に耳を傾けながら、PDCAサイクルを回していくことを心がけてきました。

 

合理的配慮に関する問合せが急増。求められているのは、企業側の「答え」

 
タキザワ:2021年5月に障害者差別解消法の一部が改正され、2024年4月1日より民間事業者にも合理的配慮が義務化されます。この義務化による変化はありますか?

金子さん:2024年に入ってから、お客様からの改善を求めるお声が、如実に増えていることを実感しています。お客様自身が「合理的配慮」という言葉を使われることはないものの、そこに繋がるお声が増えていますね。

植田さん:お客様も合理的配慮の義務化についてよくご理解されているので、それに対して企業側がどのように改善していくのかを、具体的な行動で示して欲しいという「アンサー」を求められているように感じます。
私たちとしても特に避けたいのは、お客様によって態度や応対を変えることです。すべてのお客様へ平等に感動体験をしていただくためにも、企業側がどんな応対をしていくのか、施設としての見解を統一することが大切だと考えています。

 
タキザワ:合理的配慮の義務化を負担に感じる場面はあったりしますでしょうか?

金子さん:これまでもバリアフリーを推進してきた中で、さらに合理的配慮にも取り組まなければいけないという気持ちもありましたが、すぐさまそこに取り組む余裕がなかったのが現状です。
しかし、だからこそ今回の義務化が施行されるおかげで、合理的配慮に対してより積極的に取り組むきっかけができたと考えており、組織としても前向きに捉えていますね。義務化を絶好の機会と捉え、取り組みをさらに強化していきたいです。

 

「障害のある講師と共に学ぶ」というワークショップ形式が実施の決め手に

 
タキザワ:そんな中、PLAYWORKSの「合理的配慮ワークショップ研修」を実施するに至った決め手は何だったんでしょうか?

金子さん:合理的配慮の義務化に伴い、お客様からのご要望も増える中で、現場で働くスタッフに理解してもらうためには、運営側の私たちも合理的配慮について詳しく学ばなければならないという危機感を覚えていました。
とはいえ、ただ資料を読んだり、講師から話を聞くなど、座学だけでは十分な理解が得られないと考えていたんです。
そんな時に目にしたのが、PLAYWORKSさんの「合理的配慮ワークショップ研修」でした。

植田さん:障害当事者の講師から合理的配慮を学ぶという、ワークショップ形式にとても惹かれたんです。健常者である私たちだけでどんなに合理的配慮について話しても、説得力に欠けるのではないかという気持ちが正直あって。
単なる座学ではなく、一緒に体験するワークショップ形式で、障害当事者を講師に招くことで、障害の特性や必要な配慮について、リアリティをもって学べると思いました。

左:視覚障害講師 中川テルヒロ 右:聴覚障害講師 伊藤芳浩
 

金子さん:さまざまなお客様と関わる中で、障害の程度や悩みの形などに、さまざまなバリエーションがあることを実感しています。性格が十人十色であるように、障害も十人十色であることを理解してもらうためには、単なる知識の習得だけでは足りません。スタッフ一人ひとりが、障害のある方の立場に立って考えることの大切さを、肌で感じて欲しいと願っているんです。
ワークショップ研修によって、合理的配慮について学んで欲しいという思いはもちろんのこと、役割・立場が異なる様々な部署のメンバーが一緒に受講することで、部署の垣根を越えたコミュニケーションを促し、合理的配慮を通じて組織としての一体感を醸成できるのではないかという狙いもありましたね。

   

合理的配慮の本質は「対話」。部署の垣根を超えた対話が、組織に一体感を生んだ

 
タキザワ:今回の研修には、どのような方が参加されたのでしょうか?

植田さん:水族館や展望台、警備や案内所の担当者など、お客様から「サンシャインシティの人」と思われるすべての部門のCX向上の代表者に、参加してもらいました。

金子さん:また、部門の責任者だけではなく、スタッフに指示を出したり、マニュアル作りをしたりするポジションなど、合理的配慮を企業全体に広めていく際のキーマンとなるスタッフにも参加してもらいました。

タキザワ:実際にワークショップ研修を実施してみての、率直な感想を教えてください。

植田さん:実施できて本当によかったと感じています。ワークショップ研修を実施する時に期待していた、ただ座学をするだけでなく、障害当事者との体験を通じて、合理的配慮を相手の立場になって考えるきっかけになったと思います。
今回は研修として、障害のあるお客様への応対を体験しましたが、実際に合理的配慮を求められる場面は突然やってきます。
1回の研修ですべてを理解できるわけではありませんが、合理的配慮に対する心構えや気づきが得られたのは、今後の活動に大きく寄与するだろうと感じています。

合理的配慮ワークショップ研修「視覚障害への対応」の様子
 

金子さん:障害当事者の講師から、直接学ぶことの重要性も実感しましたよね。当事者の気持ちや考えを学べるのはもちろんのこと、講師の一つひとつの言葉が心に響く感覚がありました。

タキザワ:ワークショップ研修の中で、印象に残っている場面はありますでしょうか?

金子さん:社内で普段関わることのない参加者たちが、部署の垣根を超えて研修に取り組んでいる姿がとても印象的でした。
合理的配慮という1つのキーワードを通じて、例えば警備の担当者が水族館の担当者の悩みを知ったり、企業全体として課題になっている事がその場で共有されるなど、さまざまなコミュニケーションが生まれたんです。
目の前の課題に対してみんなで協力しながら、合理的配慮というゴールを目指す体験は、座学だけでは実現できない「組織や施設としての一体感」を醸成してくれました。
体験とコミュニケーションを通じて楽しく学べるというワークショップ形式が、本領発揮してくれましたね。
ワークショップの随所で「コミュニケーション」という言葉が出てきましたが、合理的配慮とはまさに「対話」が重要なのだと改めて気がつくことができました。

植田さん:視覚障害編では、実際にアイマスクと白杖を使ってペアで視覚障害体験をおこないましたが、普段は面識がない社員同士が助け合うという構図は、施設スタッフとお客様もまた同じだと思います。擬似的にでも合理的配慮を体験することができたのは、大切な学びになりました。
また、研修が終わったあと参加者たちが、「楽しかったね」と笑い合っている姿も印象的でしたね。「研修」と表現するとどうしても重くなり、受講者も身構えてしまいますが、PLAYWORKSさんは「ワークショップ」という形で、アイスブレイクのゲームも交えながら進行いただけたので。参加者が楽しく障害や合理的配慮について学べる機会は貴重です。

合理的配慮ワークショップ研修「聴覚障害への対応」の様子

 

合理的配慮ワークショップ研修での学びを生かし、「誰もがストレスなく過ごせる空間」の実現を目指す

 
タキザワ:ワークショップ研修で得た学びを、今後どのように生かしていきたいとお考えですか?

金子さん:まずはこの学びを、各部門のマニュアルに反映させていきたいですね。研修資料を社内で展開し、スタッフ全体で合理的配慮への理解を深めていく予定です。
各部署でのミーティングなどで研修の内容を共有して、実践につなげていくことも大切だと思っています。
それに、今回の研修を一回限りのものとせず、定期的に開催したい。何度でも開催していくべきものだと感じているので、より多くのスタッフに体験してもらえると嬉しいです。

植田さん:これまでも取り組みとして行ってきた「バリアフリー情報サイト」の拡充も行っていきたいと、改めて考えています。
当初は足が不自由な方をメインターゲットとして始めましたが、今後は研修で得た知見やこれまでの調査結果などを生かして、視覚や聴覚に障害のある方向けの情報も充実させることが目標です。
また、サイトのアクセシビリティ向上にも取り組んでいく予定です。情報サイトも含め、様々な手段をトライアンドエラーで試しながら、ハード面だけではカバーできない部分をソフト面でフォローしていきたいと思います。

金子さん:以前から課題だった、テナント店舗の合理的配慮への理解と協力も推進していきたいですね。研修で学んだ「コミュニケーションの大切さ」はまさに、日常の接客に活かせる部分だと思っているので、テナントの皆さんにも伝えていきたいです。
今回のこの研修はあくまでもスタートライン。継続的な取り組みや社内啓発を通じて、サンシャインシティが掲げる「誰もがストレスなく過ごせる空間」の実現を目指したいと考えています。

 
タキザワ:最後に、今後のサンシャインシティでの合理的配慮の取り組みについて、展望をお聞かせください。

金子さん:私たちは、障害の有無に関わらず、誰もがペインなく楽しめる施設を作っていきたい。そのためには、スタッフがお客様をケアをするだけでなく、お客様同士も助け合えるような場であることが究極の理想だと思っています。
そんな理想を実現するために、研修の実施や、バリアフリー施設としての改善の繰り返し、合理的配慮に関する社内啓発などを行ってきました。
これから直近4年間の目標は、合理的配慮も含めたCX向上を推進する施設として、都内随一の存在になることを掲げています。
繰り返しになりますが、誰もが「感動体験」を得られる施設として、より多くのお客様に足を運んでいただけるよう、今後も合理的配慮に取り組んでいきたいです。

 

お話を伺った方
株式会社サンシャインシティ コミュニケーション部 エキスパート CXチーム 金子 実和子
株式会社サンシャインシティ コミュニケーション部 リーダー CXチーム 植田 麻衣子

  
 


 

合理的配慮ワークショップ研修 

PLAYWORKS 合理的配慮ワークショップ研修

「合理的配慮ワークショップ研修」の詳細は以下をご覧ください。
https://playworks-inclusivedesign.com/news/news-5507/