INCLUSIVE DESIGN Talk|ePARA 加藤 大貴
インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKS タキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回はバリアフリーeスポーツや障害者就労支援などの事業を展開している、ePARA 代表の加藤大貴さんにお越しいただきました。創業の経緯やアクセシビリティ向上に向けた取り組み、今後の展望などについて伺いました。
本気で遊べば、明日は変わる。
公務員から起業家へ。バリアフリーeスポーツで歩む道
タキザワ:それでは、加藤さんの自己紹介をお願いします。
加藤:株式会社ePARA 代表取締役の加藤です。もともとは国家公務員である裁判所書記官として働いていました。その後、社会福祉法人品川区社会福祉協議会に入職すると、高齢者や障害者の支援に携わるような働き方に変わり、今では現職のほかにNPO法人市民後見支援協会の理事や一般社団法人日本ゲームアクセシビリティ協会の活動にも参加しています。
タキザワ:公務員からキャリアがスタートしたんですね。なぜ起業を考えたのでしょうか?
加藤:裁判所というのは公平中立の立場なので、社会的に困難な立場の方に対して直接支援をすることができないんですね。それが歯がゆくて、社会福祉協議会でまず働くことを決めました。初めは高齢者支援から入ったのですが、ケースワークで障害者の方と交流する機会も少しずつ増え始めました。
起業の決め手になったのは、2019年に社会福祉協議会で開催したイベントでの出来事です。障害当事者15名のうち3名の就職がその場で決まる体験をしまして、上手に企業とのマッチングを促せば、障害者雇用を早い段階で生み出せるのではという思いで起業をしました。
タキザワ:2020年にePARAを創業ということですが、社名の由来はパラリンピックから?
加藤:その通りです。社会福祉とeスポーツ事業を掛け合わせた事業ということで、東京2020パラリンピック競技大会が近かったことも相まって株式会社ePARAとしました。無事に商標登録も済ませ、胸を張って「バリアフリーeスポーツ事業」に取り組んでいます。
タキザワ:バリアフリーeスポーツ事業について、詳しく教えてもらえますか?
加藤:eスポーツという言葉を聞いたことがあると思います。エレクトロニック・スポーツの略称で、広義には電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉だとされています。要は、コンピューターゲーム・ビデオゲームを使った対戦のことをスポーツ競技として捉えているわけですね。
私はここに、「年齢・性別・時間・場所・障害の有無を問わず参加できる環境の下で行われるeスポーツ」として、バリアフリーeスポーツと名付けました。
タキザワ:具体的にはどのようなゲームタイトルを扱っているのでしょうか?
加藤:3つのゲームジャンル・タイトルを扱っています。1つ目が「格闘ゲーム」で、音声だけで距離感を掴んで対戦ができることから、それ自体が驚きをもって迎えられています。
2つ目は「サッカーゲーム」です。車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」として活動をしており、川崎フロンターレとの共創企画なども過去に実施しました。
3つ目が「レースゲーム」です。一般財団法人トヨタ・モビリティ基金からの支援で、昨年と一昨年には、リアルとバーチャルが交差するレース体験の実現に向けたさまざまな実証実験に協力をさせていただきました。ゲーム選定のポイントとしては、プロのような実力がなかったとしても心を揺り動かせるかどうかを基準にしています。
タキザワ:障害のあるeスポーツプレーヤーは増えているのでしょうか?
加藤:私の実感としては、少しずつ増えていると思っています。活動の1つに体験会というのがありまして、国際福祉機器展&フォーラムなど大きな会場で開催することもあれば、行政からの依頼で地方開催することもあるんですね。その時に体験者からの感想として、「障害当事者の私たちもゲームをやっていいんだ!」という声をいただくことが多いんです。最近はさまざまな障害に合わせてアクセシビリティを調整して遊べるゲームが増えているので、今後も障害のあるスポーツプレーヤーは増えていくと考えています。
イベントや実証実験への参画、ゲーム開発の監修も
タキザワ:ここからはePARAの活動を事例と共にお伺いしていきます。印象に残っているものをいくつか教えてもらえますか?
加藤:最初に紹介したいのが、レーシングゲームの取り組みです。先ほど紹介した実証実験の一環で、eスポーツで誰もがレーサーになれる世界「クロスライン-ボクらは違いと旅をする-」を企画・実行しました。
加藤:少しだけ話が逸れるのですが、このイベントには九州から江頭実里さんという学生さんが参加してくれて、当日の運営を手伝ってくれたんですね。ePARAに興味があって、いつかは就職したいと言ってくれたので、大学卒業のタイミングで初の新卒社員として迎え入れることになりました。
東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)とJR東日本スタートアップ株式会社が開催した「JR東日本スタートアッププログラム2023DEMO DAY」では、江頭さんがなんとスタートアップ大賞に輝きまして。とても誇らしいなと思っています。
タキザワ:このお話を聞いて、本当に素晴らしいことだなと思いました。挑戦をしたい人に加藤さんがチャレンジの機会を与え、そこに江頭さんも応えるかたちで成長していく。これからますますご活躍されるんだろうなと感じました。
加藤:感想をいただきありがとうございました。今後は業務委託などで関わってくれているスタッフの方も含め、成長の機会を増やせていけたらと思っています。そしてもう1つ、格闘ゲームの取り組みについても紹介させてください。2022年から開催している、視覚情報を用いない格闘ゲーム大会「心眼CUP」の様子です。
加藤:過去に2回開催していて、その時は全盲の方たちに挑戦していただき優勝者を決める大会としました。将来的には晴眼者、目が見える方やロービジョンの方にアイマスクをしていただき、混合でのイベント開催ができたらと考えています。その前段として、eスポーツカフェで視覚障害の有無にかかわらず交流ができる「心眼パーティー」を開いたりもしました。
私が印象的だったのは、晴眼者の方も「音だけを聞くほうが集中できるから、画面を見ないほうがやりやすい」という意見でした。画面が見えたほうがプレーしやすいという私のバイアスも剥がれた思いで、意外な発見がありました。
加藤:格闘ゲームについては、「心眼CUP」の様子を見ていた株式会社カプコンの担当者からお声がけがあり、『ストリートファイター6』のサウンドアクセシビリティ改善にePARAが協力をさせていただきました。ゲームのエンドクレジットにePARAの名前があるので、ぜひ見てみてください。
障害ある方の「活躍できる舞台」を広げるために
タキザワ:活動が多岐にわたるePARAですが、今後の目指す先はどこでしょうか?
加藤:活動がバラバラに見えるかもしれませんが、やりたいことは1つだけです。障害を持つ方の活躍の舞台を広げること。そのために、やれることは全部やるという気持ちで今日まで走ってきました。仕事の悩み・遊びの悩み・住むところの悩み、すべてにアプローチしていきます。特に就労に関する悩みが多いので、解決手段の1つとして2024年4月には、千葉県に福祉事業所を買収しました。今まさに次の活動が始まるところです。
タキザワ:活動の幅を広げるだけでなく相乗効果を生み出しながら、障害者の活躍の場を増やしているわけですね。福祉事業所の話をぜひ、もう少し詳しく聞かせてください。
加藤:これまでは企業に対して障害者の方を紹介して、就職が決まった際には紹介報酬をいただくビジネスモデルを展開してきました。ただ、法定雇用の対象企業が10万社あるといわれる中、まだ達成していない5万社だけにアプローチするのは何か違うなと思っていたんです。
福祉事業所で就労移行支援のトレーニングをすることで、新たな能力を見出して社会で価値を発揮できる方もいると思っています。例えばeスポーツを活用して、オンラインイベントで実況できるような仕事も可能かもしれません。
タキザワ:本当にお忙しいと思うのですが、組織のチーム体制はどのような状況ですか?
加藤:最初は1人でやっていました。少しずつ起業経験のある仲間が週1回、月1回のペースで手伝ってくれるようになったのが次のフェーズです。そこから業務委託の方などを巻き込んでイベントをつくり、社員を採用しながらチームとして成り立ったのが2年ほど前ですね。
タキザワ:障害当事者はどれくらい組織の中にいますか?
加藤:ePARAの社内に5名いて、子会社は就労継続支援A型の事業所なので10名以上。業務委託の方を含めると50名以上の一緒にお仕事をしている状況ですね。
タキザワ:ePARAさんと同様の活動をする企業・団体もこれから増々増えてきそうですね。ぜひ、10年後の姿もお伺いしたいなと思います。
加藤:まずは、福祉事業所をどんどん機能拡大させたいですね。地域の細やかなリクエストに応えられるよう受け皿は増やしていきたい。また、就労だけではないさまざまな悩みにも応えていきたいと思っています。障害者グループホームの建設など、住むところに関する課題も解決していきたいですね。そのためにも、色々な企業との連携を意識することが重要だと考えています。
世界初の就労移行支援コースとは?
タキザワ:では最後に「壁打ちのコーナー」です。対談形式で、インクルーシブデザインの価値や可能性を探求したいと思っているのですが、加藤さんが関心のあるテーマって何かありますか?
加藤:あります!私は思考実験をすることが好きで、「世界初のサービスをつくるなら、どのような切り口があるか?」をいつも考えているんです。今までにない価値を、手持ちのパーツを使って実現するなら何ができるのかを話し合いたいと思っています。最近だと福祉事業所を開設したので、世界初の就労移行支援コースを開発したいですね。
タキザワ:それは障害当事者の方が、仕事に就く・働くために、学んだりスキルを身につけたりするもの、ということで合っていますか?
加藤:合ってます。ただ、企業が求める人材の育成や就職だけをゴールにしなくてもいいと考えていまして。能力や適性があるなら、起業をしてもいいですよね。
タキザワ:なるほど。では、クラウドファンディングはいいかもしれませんね。テストマーケティングからファン集め、資金調達までできる良いプラットフォームだと思っています。クラウドファンディングの企画・実行をするようなプログラムはどうですか?
加藤:いいですね。うちも過去に5つほどプロジェクトをやっていて、累計で3,000万円弱の資金を調達しています。企画やライティング、SNS運用に動画制作、購入者へのリターン発送など小売業の経験もできるので、ミニプロジェクトを1つやるのはすごくいいですね。
タキザワ:企業側も、企画者に対して「採用したい」と興味を持つかもしれないし、自社で事業化ができそうなものであれば「一緒にやりましょう」となるかもしれない。
加藤:チャレンジをする人をみんな応援したくなるので、認知も広がりそうです。人材不足が叫ばれている昨今だからこそ、障害の有無にかかわらず採用をしたいのが今です。ソーシャルグッドな支援コースの開発……これやります!
タキザワ:あと、最近気になるテーマで、特例子会社で障害のある方を雇用している場合に、メインの業務ではなく切り出された作業だけをお願いしている場合があるんですね。企業側もこうした状況は解決したいと思っているようで。PLAYWORKSとしては、視覚障害者は「光がない世界のプロ」といった具合に、専門的なスキルをブランディングするやり方を提案しています。
加藤:アクセシビリティのスペシャリスト養成コースはやりたいですね。
タキザワ:Webだけの話にとどまらず、家電などの領域に踏み込むのもおすすめしたいです。Webは検索してから情報を得るための入口でしかないので、そこから商品を詳しく知り・購入・設定・利用・修理といった具合に、トータルでアクセシビリティのアドバイスができたら強いなと思っているんです。
加藤:なるほど。
タキザワ:あともう1個、リアルイベントにも注目していまして。今は大きなイベント会場でも障害のある方にどんどん参加してもらえるような取り組みを始めているじゃないですか。車椅子の対応や、視覚障害の方向けのガイド、発達障害やLGBTQを含めて、多様性のあるアクセシブルなイベントを開催している。でも、すべての領域で監修・現場サポートができるサービスって少ないと思っています。
加藤:それはすごい。自社ですべて抱えるのか、それとも多様な障害者や関連団体を取りまとめるコーディネーターのような機能になるのか。
タキザワ:PLAYWORKSの場合は後者ですね。アドバイザーやコーディネーターとして、専門的なスキルを有する団体・企業との座組を想定しています。でも、やはり現場が一番大変になるかなと思っています。
実現のためにも、例えば車椅子ユーザーの方が車椅子ユーザーの方を誘導するとか。むしろそのほうがいいですよね。車椅子ユーザーに視覚障害のある方が掴まって移動してもいい。障害を超えて補い合えるかたちのサポートも可能性があるなと思っています。
加藤:障害を持っているからこそ分かち合える。そういうシチュエーションはあると思うので、私たちの福祉事業所ではピアサポートにも関心を持っています。今のお話からはそういった概念に近いものを感じたので、弊社もぜひサービスとして広げていきたいです。
タキザワ:最後に今日の感想を伺いたいと思います。
加藤:私は思考実験が本当に好きで、普段から色々と考えていますが、今回のように壁打ちをしてもらって初めて出てくるアイデアもあるなと思いました。タキザワさんとお話をすることで、いつもと違う角度からの発想も生まれたので、すぐに活かしていこうと思います。ありがとうございました!
タキザワ:本日のゲストは株式会社ePARA代表の加藤さんでした。どうもありがとうございました!
PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel
https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign
INCLUSIVE DESIGN Talk|ePARA 加藤大貴