INTERN INTERVIEW 02|渡邊 聡美
LAYWORKSのインターンは、クライアントワークやプロジェクトに関わる中で、インクルーシブデザイン・サービスデザイン・ワークショップデザインについて学んでいます。今回は2020年3月からインターンとして活動している、渡邊聡美のインタビューをお送りします!
渡邊 聡美 SATOMI WATANABE
静岡県静岡市出身、常葉大学造形学部造形学科ビジュアルデザインコース 4年・「市民が実践者に変容するしくみの考察②」にて日本デザイン学会のグッドプレゼンテーション賞受賞・2021年学長奨励賞受賞・趣味は写真をとること、本を読むこと、珈琲を淹れること。
まずは渡邊さんのことを簡単に教えてください
大学でサービスデザイン、UX/UIデザインを学んでいます。学外活動では、PLAYWORKSのほかに、融資・VC・クラウドファンディング・補助金を支援するスタートアップ企業でもインターンとして、アイキャッチやロゴデザインを担当をしてきました。
現在は卒業制作として、思春期の子どもが抱えるジェンダーバイアスを解消するためのD2C 下着ブランド「ジブンマネキン」の立ち上げに取り組んでいます。ダイバーシティ&インクル-ジョン推進の流れにおいて、日本はまだ世界にくらべ、男女のステレオタイプが根強く残っています。子どもたちは社会の中で言われている「女らしさ」や「男らしさ」を、家庭でのしつけやメディア、学校での隠れたカリキュラムとしてすでに学んでいます。そして、その「らしさ」の枠組みから外れることで、排除や暴力の対象になることもあります。このブランドは「個性はもっと多様でいい。」を合言葉に、自分らしさに強く葛藤を感じている思春期の子どもたちに、自分らしくいられる下着選択をしてもらうことで、性別に関わりなく、誰もがのびのびと生きられる社会を実現することを目指しています。
ジブンマネキン公式サイト https://jibunmanekin.studio.site ※パソコン版のみ対応
「ジブンマネキン」を立ち上げたきっかけは何でしょうか?
下着店舗の前を通るたびに、自分自身が違和感を感じていたんです。店頭に置かれた色っぽいマネキン、装飾的な下着の多さ、「盛れる・寄せる・女性力アップ」といった文言から感じる、社会が求めている女性像への違和感がありました。そういう場所で店員に接客される恥ずかしさ、周囲からの視線も気になります。性に敏感な思春期の子どもたちの多くは、急な身体の成長で葛藤を抱えています。私も思春期だったころ、学校でスカートしかダメ、髪型、下着の色まで指定されて、大人のルールにのっとって生きなければいけないことに、いつも窮屈さを感じていました。多くの同世代の人たちが、同じように苦しんでいたと思います。
この数年で、LGBTQやジェンダーという言葉は急に浸透してきましたが、性別に限らず、見た目や年齢、肩書など、世の中にはまだまだ偏見や差別が多くあります。トランスジェンダーの友人は、「子ども時代はもっと自分が心地いいと思える姿で学校生活を送りたかったけど、自分の力じゃどうしようもできないから諦めていた」と教えてくれました。
私がデザインをする時に一番大事にしているのは、身近な人たちに共感してもらえるか?、一緒にワクワクできるものになっているか?ということ。特に子どもたちの未来を良いものにしていきたいと考える時に情熱を感じます。「ジブンマネキン」では、そういった悩みを持つ子どもたちが減るように、社会や教育が求める「らしさ」の呪縛を少しでも取り除けたらと思っています。
具体的にはどういったサービスを提供するんでしょうか?
「ジブンスーツ」という、3D計測用ボディースーツを購入してもらい、自分の胸囲を正確に計測します。計測情報をもとに、アプリを使って自分の好みにカスタマイズして発注すると、商品が届くという仕組みです。同時に、色んな世代の人が思春期の悩みやエピソードを共有し、誰もが匿名で参加できるコミュニティを、オンラインで運営しようと計画しています。
実はこの研究を通じて、私自身にもジェンダーバイアスがあったことを発見しました。私はピンクでレースやリボンがついている下着に抵抗感があったので、きっと水色やグレーなどの色がいいはずだと思っていたんです。ところがユーザーテストで、実際に思春期のお子さんと保護者に下着をデザインしてもらったところ、色はピンクで前面に香水のスタンプをデザインし、そして自分の名前をドーンと大きくプリントしたんです。その時に「色は誰のものでもないんだな」「本当の意味でのジェンダーフリーって、色んな色が混ざっていることなんだ」と気づかされました。そうした経験を通じて、自分もいつの間にか様々なバイアスが刷り込まれているという自覚をする大切さと、自分の考え方や判断の仕方を一度疑ってみるという重要さを実践を通して学ぶことができました。
PLAYWORKSでは具体的に何をしているのですか?
ワークショップのグラフィックレコーディング(以下、「グラレコ」という。)や、公式サイトなどのビジュアルデザインを担当しています。
個人的にはグラレコには価値は3つあると思っていて、1つ目は、当事者と健常者の意見を対等に扱えること。2つ目は、見えない空気感や場のテンションを挿絵や色をつかって可視化できること。3つ目は、その時、その瞬間、どんな対話や議論が起こったのかをアーカイブとして残せることだと思っています。
学業とインターン、どうやって時間を使い分けているのですか?
これは自分の強みでもあるのですが、自分をマネジメントするのが得意なんです。例えば、1日のうちに授業課題とインターン業務と飲食店のアルバイトがあった場合は、タスクの優先順位を書き出して、1つずつ順に進めていきます。たまに集中力が続かない時は、同時進行で2つ3つのタスクをして、思考を行ったりきたりさせて頭を切り替えながら作業を進めています。性格上、やりたいことで1日の予定を埋め尽くしてしまうのですが、卒業制作もインターンも全力で挑戦したいし、常に知的好奇心を刺激し続けていきたいと考えています。このほかにも部活動や過去に関わったイベントのメンターをしたりしていて、時間のやりくりが大変なこともあるのですが、忙しい時ほど、生きてる!という実感を持てます。
PLAYWORKSでのインターンは、就職にどういった影響を与えましたか?
2022年4月から、東京の事業会社でデザイナーとして働くことが決まっています。私がインクルーシブデザインに関心を持つようになったのは、母親が台湾人で、言語による情報格差の当事者だったことが原体験にあります。すべてのサービスが社会的弱者(外国人を含む)にも便利で使いやすいものであるべきだし、障害やセクシャルマイノリティといった社会的弱者の方にも考慮するものづくりをしたい、という願いを応援してくれる会社にご縁をいただきました。
PLAYWORKSでは聴覚障害、視覚障害といった障害者と一緒にプロジェクトを進めていますが、事業を作り出す最初のタイミングから当事者の方がメンバーとして関わっています。わたしがグラフィックレコーダーとして参加する中で、当事者の方、マイノリティの方の言葉を聴くことの大切さは、PLAYWORKSでの経験がなければ分からなかった。「1人でつくらない」ことを学びました。
それに触発されて、卒業制作ではセクシャルマイノリティの当事者の方をはじめ、同級生、後輩、他大学の学生などたくさんの人に「これどう思う?」「どういう未来になりそう?」と問いかけ、多様な人の意見を聞いてまわりました。そうすることでより安全なものを作ることができると思うんです。デザインは物事をイノベートする力だけでなく、SNSのアプリなどは人の命を奪いかねない、無意識のうちに多様性や公平さの欠如から除外してしまう危険性も持っている。一般的なサービスのペルソナは、前向きなユーザーだけを想定しているように感じます。どちらかというと否定的な人だったり、心が敏感だったり、そういう人のことまで考えて作る必要があるんじゃないかと思います。ですから、社会に出る前にPLAYWORKSで、デザイナーとしてつくる責任を考える機会をいただけて、本当に感謝しています。
PLAYWORKSで印象に残っている活動や出来事は?
全部ですね(笑)。選ぶことができないくらい、どれも素敵な経験でした。当事者の方たちの生きざまがとにかくカッコいいんです。耳に障害があって周りから心配されても、それを押し切って全国をドライブするとか。美容師になりたいとか、焼き芋売ってみたいとか、純粋にやりたいことがたくさんあって、夢があってワクワクして、楽しそうでうらやましいです。出会えて本当によかったと思うし、これからも何らかの形で関わっていけたらと思っています。
これから個人的にやっていきたいのはどんなこと?
2022年から高校の「情報」の授業カリキュラムで、人間中心設計(HCD)が必須項目になるので、私たちより下の世代は全員UXネイティブになると言えます。テクノロジーのおかげで、今はデザイナーでなくてもデザインができます。日常生活でも、例えば私の祖母は必ず回覧板にお便りを挟むのですが、これもデザインですし、企業の経営にデザインが活かされていたり、地域創生だったり、今後デザイナーという大きな肩書きは細分化され、地域づくりデザイナー、フードロスデザイナーというようにコンテンツごとに確立していくと思います。
社会の複雑化と同時に多様化するニーズに応えられるように、データから判断する定量的な手法・プロセスだけでなく、私は生活者として消費者のリアリティに寄り添って、喜んでもらえる体験を届けまくりたいと思っています。
未来のPLAYWORKSインターン生に対してメッセージをどうぞ
大学にいて感じることは、学生の学びが業務的で、全部タスクとして考えがちというか、悪く言えば希望がない。デザイナーにはなりたいけど、特にやりたいことはないという人が多い気がします。例えばチームを組んだ時、アイデアがぜんぜん出てこない。渡邊さんの意見がぜんぶ採用、みたいになってしまって、これってチームなの?なんてことがよくありました。1人ひとりが強みを持っていて、総合することで素晴らしいものをつくれるのに、やる気のある人だけがやっているように見える状況が辛かった。別に一緒にやっているメンバーが悪いわけではないんですが…
PLAYWORKSには、全国からデザイン系の学生が集まっていますし、インターン生同士で「それいいね!」とか「わかるわかる」と共感しあえたり、インクルーシブデザインの情報交換ができるのが嬉しかったですね。そういう出会いを求めている人は、ぜひ参加してみたらいいと思います。
何よりも、代表のタキザワさんはインクルーシブデザインを体現している方だと思います。クライアントや当事者の方たちだけでなく、インターン生にもいつもやさしく平等に接している姿を身近に見てきて、デザイナーとしてのロールモデルというか、自分が何か判断する時に「タキザワさんならどうするだろう」という指針を持つことができました。PLAYWORKSはインクルーシブデザインを学ぶだけでなく「感じる」ことができる場所だと思います。
INTERN INTERVIEW 01|鈴木 葵
https://playworks-inclusivedesign.com/column/column-2124/