REPORT|視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド2023」
PLAYWORKSでは、障害者など多様なリードユーザーとの共創からイノベーションを生み出す「インクルーシブデザイン」に取り組んでいます。今回は2023年11月1日〜3日、丸井錦糸町店8皆すみだ産業会館で開催された、視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド2023」について、視覚障害リードユーザーの中川テルヒロさんとともにレポートします!
視覚障害者の日常サポートや最新テクノロジーが勢ぞろい
「サイトワールド」は、世界的にも例を見ない視覚障害者向けの総合イベントです。今回はコロナ禍を経て4年ぶりの開催となり、会場はたくさんの来場者で賑わっていました。
この4年間で進化したアクセシビリティの数々に、実際に触れることができる本イベント。視覚障害リードユーザーの中川テルヒロさんと一緒に、6つのブースを体験します!
中川テルヒロ
一般社団法人PLAYERS 理事。視覚障害リードユーザーとして、大手企業の複数プロジェクトに参画。エンジニアとしてソフトウェア開発を行いながら、視覚障害者ならではの視点を生かして講師、アドバイザー、ファシリテーターなどに従事。10歳の頃から徐々に視野と視力を失い、現在は左目が全盲、右目が中心のみ見える状態。家庭では二児の父。
体験した展示はこちら
- ソニー株式会社 4K液晶TVブラビア・完全ワイヤレス型ヘッドホンLinkBudsなど各種アクセシビリティ機能
- グーグル合同会社 Android補助機能 Lookout
- ダイハツ工業株式会社 白杖歩行安全支援 スマートウォーク
- 三菱電機株式会社 らく楽アシスト家電
- 株式会社ドット 触覚ディスプレイ ドットパッド
- PLAYWORKS株式会社 ココテープ・ロービジョン体験キット
視覚障害リードユーザー 中川さんと6ブースを体験!
ソニー株式会社
さっそく、中川さんと一緒にブースをまわっていきます。まず訪れたのはソニー株式会社。こちらのブースでは、視覚障害者向けのアクセシビリティ機能が搭載されたテレビやイヤホン、スマートフォンを体験しました。
読み上げ機能搭載「4K液晶テレビ ブラビア」
中川さんが最初に興味を持ったのは、読み上げ機能が搭載された最新型テレビ「4K液晶テレビ ブラビア」です。こちらの製品は、視覚障害者向けに番組表や設定メニュー項目など、画面上に表示される文字情報を細部まで読み上げてくれるのだそう。中川さんにテレビの読み上げ機能を体験してもらいました。
読み上げの音声は、コンパクトな「お手元テレビスピーカー」から流すことができるので、テレビから離れていても、読み上げ音声をしっかりと聞き取ることができるのだそう。スピーカーを持ってみると、丸みを帯びたデザインが手にフィットして、安心感がありました。テレビの背景音よりもスピーカーから流れる読み上げ音声の音量を、大きくできる設定もあり、中川さんも「テレビの背景音が大きくて、読み上げ音声で状況が掴めないことがあるから便利」とのこと。読み上げ速度も9段階で設定でき、聞き取りやすい速度にカスタマイズできるのも便利なポイントです。
また、こちらのテレビはリモコンだけでなく、声での操作も可能です。電源のオンオフや音量の調整、チャンネルの切り替えも音声操作できると聞いて、驚きました。中川さんによると、普段テレビを見るときは、リモコンのレイアウトをなんとなく覚えて操作しているそうですが、あまり使わないボタンを操作するときや、手が離せないタイミングだと、音声操作も使い勝手が良さそうだと話していました。
耳を塞がない「完全ワイヤレス型ヘッドホン LinkBuds」
次に体験してみたのは、「完全ワイヤレス型ヘッドホン LinkBuds(リンクバッズ)」です。LinkBudsは、耳を塞がない構造になっているため、ヘッドホンをしていても、周囲の音声が自然に聞き取れる製品です。視覚に障害のある方でも、音楽や動画の音声を聞きながら、作業や外出ができるようになり、生活をより豊かにしてくれるヘッドホンです。
中川さんは、すでにLinkBudsを使ったことがあるそうで、慣れた手つきで装着してくれました。軽量かつシンプルなデザインなので、視覚障害者の方でも操作がしやすそうな様子が印象的です。中川さんによると、音質もとても良いらしく、音が立体的に聞こえるため、音楽や音声の臨場感が増すのだそう。スピーカーやイヤホンなど、さまざまなサウンドデバイスを世に送り出しているソニー株式会社ならではの、こだわりが感じられる製品でした。
写真撮影時、水平を音で伝えてくれる「スマートフォン Xperia」
続いて、晴眼者にも人気のスマートフォン「 Xperia(エクスペリア)」を体験してもらいました。こちらのスマートフォンは、写真撮影をする際に画面が水平なときと、水平から外れたときの両方を音で通知してくれるのだそうです。
普段から写真を撮ることが多いという中川さんも、 「この機能は便利ですよね」と呟きながら、何度もシャッターボタンを押していました。写真を水平に撮るのは晴眼者にも難しいので、視覚障害者の方に関わらず、多くのユーザーにとって便利な機能だと感じました。
グーグル合同会社
次は、グーグル合同会社が出展していたブースへ。スマートフォンAndroidで利用できる、視覚障害者向け文字認識・物体認識アプリ「Lookout(ルックアウト)」を実際に使ってみました。
視覚障害者向け文字認識・物体認識アプリ「Lookout」
「Lookout(ルックアウト)」は、スマートフォンのカメラを使って、周囲の文字や物体を探索できるアプリです。近くにあるものをカメラに映すと、物体を認識し、その名前を音声で教えてくれます。実際に、中川さんが机の上に置かれたバナナにカメラを向けてみると、スマートフォンから「バナナ」とアナウンスが流れました。
物体を認識する機能の他に、リアルタイムで文字を認識する機能も搭載されています。中川さんが目の前にあるチラシにカメラをかざすと、左上から順番に音声読み上げが始まりました。文字の上下に関わらず認識してくれるので、上下がわからない紙に書かれた文字を読みたいときにも安心して使えるのがすごいところです。
「家に届いた書類の内容を確認したいときや、外出したときに周りにどんなものがあるか知りたいときに使いたいアプリですね」と中川さん。中川さんによると、日常生活で一緒にいる相手も、目の前にあるすべての情報を教えてくれるわけではないので、視覚障害者は思ったよりも情報を受け取れてないのだそう。「普段の生活だけでなく、旅行先などの自分がよく知らない場所に行くときも、目の代わりとして役立ってくれそうですよね」と、実際に使う場面をイメージして、話が盛り上がりました。
ダイハツ工業株式会社
3ブース目に訪れたのは、ダイハツ工業株式会社が提供する「白杖歩行安全支援 スマートウォーク」の展示です。
肩掛け式カメラで点字ブロックや障害物を知らせる「白杖歩行安全支援 スマートウォーク」
「白杖歩行安全支援 スマートウォーク」は、点字ブロックや障害物を音声で知らせてくれる、肩にかけて使うカメラデバイスです。中川さんに実際に肩にかけてもらうと、「思ったよりも軽く、掛け心地がいい」とのこと。肩掛け式のデバイスは、肩への負担が大きいイメージですが、長時間の使用でも痛みや疲れが出ないように設計されているのだそうです。
右肩部分には、小型のカメラが内蔵されており、道中にある障害物や点字ブロックを認識してくれます。障害物は、「人・バイク・トラック・工事コーン・自転車・車・電柱・誘導/警戒ブロック」の7種類を検出することができるのだとか。障害物の警告と、点字ブロックを認識したときの補助は、それぞれ別の音声で流れるので、視覚障害者の安全な歩行をサポートしてくれます。使用する際は、スマホとの連携や電波も必要ないため、電波の届かない地下でも使用できるのが特徴です。
中川さんは、「ハンズフリーで使えるから便利だけど、もう少し小型になったら使いやすそうですよね」と、ブースにいた開発者の方に要望を伝えていました。こうして、製品を必要とするユーザーと開発者が直接意見を交換できるのも、サイトワールドに足を運ぶ醍醐味の1つです。
三菱電機株式会社
続いて、三菱電機株式会社が販売しているUD家電を体験しました。大手家電メーカーの中でも、障害者向けの商品を数多く開発しているという三菱電機株式会社の製品に、期待が高まります。
音声読み上げ機能や点字が搭載された「らく楽アシスト」家電
三菱電機では、「らく楽アシスト」というユニバーサル・デザインに基づいた機能を搭載した家電を開発しています。数ある家電の中でも、まずは炊飯器を使ってみました。こちらは、音声読み上げ機能が搭載されており、専用の点字シールも付属しています。
家電を使うときは、ボタンのレイアウトを覚えるか、シールを貼ってボタンの位置をわかりやすくしているという中川さんですが、音声読み上げがあるとやはり安心感があるのだそう。やけどやケガの危険性がある調理家電だからこそ、危険や誤った操作を防止できる家電は、障害があるユーザーにとって、ありがたい存在なのだと教えてくれました。
その他にも、音声機能の付いたオーブンやIHコンロなど、ブースに展示されていたさまざまな家電を体験してもらいました。
株式会社ドット
次に訪れたのは、株式会社ドットのブース。こちらでは、ピンで点字や画像を表現する「触覚ディスプレイ ドットパッド」を使ってみました。国内ではまだほとんど出回っていない最新技術に、中川さんも興味津々です!
点字や画像を2400本のピンで表現する「触覚ディスプレイ ドットパッド」
「触覚ディスプレイ ドットパッド」は、タブレット端末のようなデバイスで、2400本のピンの突起によって、点字や画像をデバイス上に表示することができ、文字情報や画像情報を触れて認識することができるようになります。
実際に、専用アプリを使い、タブレット上で選択したカタカナの「ア」を、ドットパッドで表示してみました。中川さんに「なんの文字かわかりますか?」と聞いてみると、「カタカナのアですよね」と、触っただけですぐに認識できることがわかります。専用アプリを使えば、PDFやテキストファイル、Webページなどもドットパッドで表示することができるそうで、今までにないデバイスに中川さんも興味を引かれていました。
テキストだけでなく、手書きの文字やイラストも表示することができます。今は販売台数も少なく、値段も高額ですが、今後どのように技術が発達し、社会に普及していくのか楽しみな製品でした。
PLAYWORKS株式会社
最後に訪れたのは、PLAYWORKS株式会社のブース。こちらでは、点字ブロックのように使える視覚障害者歩行テープ「ココテープ」と、晴眼者がロービジョンの見え方を疑似体験できる「ロービジョン体験キット」が展示されていました。
視覚障害者歩行テープ「ココテープ」
まず体験したのは、「ココテープ」です。ココテープは、視覚に障害がある方の歩行をガイドする、幅48mmの塩化ビニル製のテープ。軽量かつコンパクトなので、いつでもどこでもカバンに入れて持ち歩くことができ、必要な場所に必要なときだけ貼ることで、視覚障害者の自主的な移動をサポートしてくれます。
中川さんに実際に使ってもらってみると、「通常の点字ブロックのように使えるだけでなく、テープに白杖を沿わせて歩行することができて、レールに乗って歩いている気分でとても楽です」と、楽しそうに体験されていました。
ココテープを横から見てみると、突起の部分は内側が空洞になっていることがわかります。こうしてあることで、上を歩くと突起が横に倒れるため、足が不自由な方や車椅子ユーザーの移動の妨げにもなりにくい設計になっているのだそうです。
中川さんも、「ホテルをとったとき、わかりにくい位置に部屋を指定されて困ることがよくあるんです。そういうときに、ホテルのスタッフさんに頼んで、ココテープを貼ることができたら便利かも」と実際に使いたいシーンを教えてくれました。
PLAYWORKS株式会社 タキザワさんからのコメント
点字ブロックは、日本発祥の視覚障害者にとって貴重な発明です。ただ、そんな視覚障害者にとって重要な存在であるにも関わらず、どこにでも点字ブロックが貼られているわけではなく、建物に後付けで導入することが難しいのが現状です。また、そんな点字ブロックのような歩行支援に対して、視覚障害者側は常に受け身でいなければならないことも、課題だと感じていました。
そこで、今回展示した「ココテープ」は、視覚障害者自身が自分で持ち歩くことができ、いつでもどこでも気軽に使用できることをコンセプトに企画・制作しています。「ココテープ」は、点字ブロックと同じくらい世界的なインパクトがある発明だと信じています。2023年12月20日まで、「ココテープ」を世に広めるためのクラウドファンディングを実施しているので、ぜひご支援お願いいたします!
「ココテープ」クラウドファンディングページ
https://readyfor.jp/projects/coco-tape
視覚障害者歩行テープ「ココテープ」
https://playworks-inclusivedesign.com/work/work-5404/
様々なロービジョンの見え方を疑似体験できる「ロービジョン体験キット」
最後に、PLAYWORKS株式会社のブースに展示されていた、ロービジョンの見え方を疑似体験できる「ロービジョン体験キット」も体験してみました。簡単に組み立てられる紙製のメガネを使って、「コントラスト低下」「視覚狭窄」「中心暗点」の3つの見え方を、疑似体験することができるのだそう。
こちらの製品は中川さんに代わって、ライター・目次ほたるが体験してみました。さっそく体験メガネをかけてみると、視界が急に不明瞭になるため、ちょっとした行動や歩行にも不安を感じるようになることがわかります。
ロービジョンの見え方を体験することはできましたが、あくまでも晴眼者の私が体験した感覚なので、実際に当事者の見え方をリアルに体感することができたわけではありません。そう考えると、視覚障害に関わらず、障害がある方と関わる際は、「障害」という枠組みに囚われず、一方的な決めつけを取り払って、積極的な対話をすることが必要なのだと改めて感じるきっかけになりました。
ロービジョン体験キット
https://playworks-inclusivedesign.com/low-vision-experience-kit/
視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド」まとめ
全38企業が提供するさまざまな製品やサービスを一挙に体験できるサイトワールド。中川さんに同行したライターである私自身は、今回初めてこのイベントに参加させてもらいました。視覚障害者向けの総合イベントと聞いていたため、コンパクトな規模だと予想して訪れてみると、その規模の大きさと来場者数にびっくり。どのブースにも、たくさんの来場者が集まっており、皆さん興味深そうに製品やサービスを体験している様子が印象的でした。今回は、コロナ禍を経て4年ぶりの開催ということも大盛況の背景にあるかもしれませんが、それを抜きにしても、多くの視覚に障害がある人が求めているイベントなのだということを、実際に足を運んでみると実感します。
私自身も、視覚障害リードユーザーの中川さんとサイトワールドを回れたおかげで、当事者のリアルな目線で、一緒にブースを体験することができ、普段なら関心を持たないような細かい製品のポイントにも興味を持つことができたと思います。
サイトワールドの来場者のほとんどは、視覚障害を持つ方や、そのサポートをする方ばかりでしたが、普段はインクルーシブデザインやユニバーサルデザインに触れる機会がない晴眼者の方にも、ぜひ参加してもらいたいイベントです。普段触れることのない技術に出会うことは、自分の中にある視点を増やし、視野を広げるきっかけになるのではないでしょうか。
文:目次ほたる(めつぎ・ほたる)
都内在住のフリーライター。家事代行業、スタートアップ企業の経理事務、ライターアシスタントなどを経て、2019年に独立。現在は、生き方や社会課題、地域の魅力発掘など幅広いジャンルで、取材記事やエッセイなどを手掛けている。SNSでは、「ままならない日々を心地よく耕す」をテーマに発信中。