REPORT|インクルーシブデザイン体験ワークショップ:視覚障害者との共創
PLAYWORKS は障害当事者との対話から新たな価値を共創する「インクルーシブデザイン」を通じた、新規事業開発・サービスデザインを行なっています。今回は2021年4月26日に開催された「インクルーシブデザイン体験ワークショップ:視覚障害との共創」の体験レポートをお届けします!
視覚障害者との対話から、新たな価値を共創する。
今回は「視覚障害者との対話から、新たな価値を共創する」をテーマに、リードユーザーである視覚障害者3名を含めた計15名で、3時間のオンラインワークショップを行いました。
プログラム
- 自己紹介・視覚障害者の紹介
- 視覚障害者との共創事例の紹介
- 対話:視覚障害者からの問いかけ
- 対話:晴眼者から視覚障害者への質問
- ブレスト:障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいコト
- プレゼンテーション
自己紹介・視覚障害者の紹介
まず自己紹介として2名のグループをシャッフルしながら、①マイブーム ②買って良かったモノ ③最悪な出来事 ④感動したコトについて紹介していきました。④感動したことについては、全員が目を閉じた状態で対話を行いました。
続いて、リードユーザーである視覚障害者の紹介が行われました。
児玉さんは1種1級の中途の視覚障害で、見え方は明るさが分かる程度。マイブームはオンライン飲み会やClubhouseで誰かと話すことです。板嶌さんは後天性の視覚障害で、少しずつ見えなくなってきており、今はパソコンを前にして白いライトが見える程度です。盲導犬と生活しており、マイブームはClubhouse。大沢さんは網膜色素変性症で、盲導犬と暮らしています。マイブームはClubhouseで人狼ゲームやワードウルフなどのルームを漁ることです。
3人ともClubhouseがマイブームで、それぞれの楽しみ方をされていました。そこから「Clubhouseで視覚障害者であることをオープンにしているか?」という話に展開し、「プロフィールに視覚障害者と書いているが、必要なければ自ら言うことはない」「それについて触れてくる人はほとんどいない」ということでした。健常者は初対面の視覚障害者に、障害についてどのように触れたら良いのか?悩みどころではあります。
視覚障害者からの問いかけ
いよいよ視覚障害者から晴眼者に質問をぶつける「視覚障害者からの問いかけ」のワークです。グループを変えて20分の対話を2セット行いました。
児玉さんからの問いかけは「視覚障害者がしている仕事のイメージは?」。参加者からは「健常者と比べて目以外の感性が敏感だから、それを活かした仕事があるのではないか?」「視覚障害者でもわかりやすいUIのデザイナー」など、視覚障害当事者だからこそ生み出せる価値や仕事があるのかも、という意見が出ました。 さらに「視覚障害者が自由で安全に移動できる街づくりとは?」という質問には、「車椅子の自動運転化」「テクノロジーを活用して雨の日でも不自由なく移動できるようにする」など、近未来の解決方法が提案されていました。
板嶌さんからの問いかけは「身内が視覚障害者になったらどうしますか?」。参加者からは「自分じゃなくてよかったと思ってしまうかも…」という声がありました。板嶌さんからは「健常者の本音が聞けて良かった」と感想を述べられていました。また身内に難病で亡くなられた方がいる参加者からは、「大変だったけれど不幸せじゃなかった」というお話をいただきました。さらに「視覚障害者の目を見て話しますか?」という質問には、「大人の視覚障害者だったら目をそらしてしまうかもしれない」「目を見ていいのか迷う」「目を見て話すのに抵抗がある」という戸惑いの声が上がりました。
大沢さんからの問いかけは「視覚障害者が本を読んだり映画を観たいといったら、どのように思いますか?」。参加者からは「点字が読めるかどうかも分からないから、何とも言えない」「逆に、視覚障害者が楽しめることをもっと知りたい!」「漫画も音声や効果音が出てきたら楽しそう!」という意見が出ました。 また「盲導犬は可哀想だと思いますか?」という質問には、「可哀想なんて思ったことなかった!」と参加者全員が猛反対。大沢さんは盲導犬と生活する中で、入店を断られたり可哀想と言われた経験からの質問だったようです。
ワークの振り返りでは「私たち(晴眼者)は視覚でイメージを作り上げるが、視覚障害者は音情報からイメージをされている」「ClubhouseやVoicyなど音声ツールが流行ってきたからこそ、視覚障害者の知見やノウハウが活かせそう」「視覚障害者はラッパーに向いているのでは?」という意見が聞かれました。
晴眼者から視覚障害者への質問
視覚障害者からの問いかけの次は、晴眼者から視覚障害者への質問タイムです。こちらもグループを変えて20分の対話を2セット行いました。
児玉さんへの質問は「目が見えないことで得したことや良かったことはありますか?」。児玉さんからは「人のやさしさを感じやすくなった、お出かけした時に手助けしてくださる機会が増えた、ライブなどで最前線で見れるとか!」「視覚障害者の輪が広がって、全国に友達ができた」と楽しそうに返答されていました。また「どうやって視覚障害者の方たちと繋がりましたか?」という質問には、「Twitterを駆使したり、視覚障害関連のイベントに足を運んでいたら自然と広がっていました」と話していました。視覚障害であっても何かを諦めるのではなく、視覚障害者同士のつながりを大切にすることで、自身のコミュニティを広く持たれていました。
板嶌さんへの質問は「視覚障害者に出会ったことがなく、街で見かけても接し方が分からない」。板嶌さんからは「子どもの頃は健常者と障害者が分けられて教育を受けており、経験値がないまま大人になってしまう。躊躇してしまうのは当然のこと」と返答されていました。子どもの頃から障害者が近い存在であれば躊躇はしないはずなのに、日本の社会では健常者と障害者が分けられてしまっているように感じます。「すべての人が住みやすい社会」は健常者と障害者が共創して行くべきなのではないかと考えさせられました。また「よく散歩はしますか?昼と夜で散歩するのは違いますか?」という質問には、盲導犬ユーザーと白杖ユーザーの違いを教えていただきました。盲導犬ユーザーは昼夜関係なく散歩が可能だが、白杖ユーザーは暗い夜に歩くのは難しいそうで、板嶌さんは盲導犬に出会ってから世界が広がったそうです。盲導犬は視覚障害者にとって目でもあり、世界を広げてくれるパートナーであることを感じました。
大沢さんへの質問は「情報収集はどのようにされていますか?」大沢さんは耳で情報を集めることが多く、VoiceOverも速いスピードでも聞き取れるそうです。また、足の裏の感覚で道のどのあたりを歩いているか、匂いでお店の場所(カレー屋の匂いがするから次を曲がる等)などの情報を判断しています。ほとんどの情報を視覚から得ている晴眼者に対して、視覚障害者は視覚以外の感性が長けていることが良く伝わってきました。また「引きこもってしまう人と外に出れる視覚障害者の違いは何だと思いますか?」という質問には、「障害を受容できるかどうか」と答えていました。障害者である自分を受け入れられなければ、世界も自分のことを受容していないと感じてしまうので、視覚障害者である自分を受容できれば外に出てこれるようになる。大沢さんが外に出てくることができるようになったターニングポイントは盲導犬を飼ったことで、犬が暇そうにしているから外に出る!と笑いながら話していました。
障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいコト
最後は「障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいコト」をテーマにチームを結成し、それを実現するためのアイデアを考案しました。視覚障害者3名がチャレンジしたいことは以下の通り。
プレゼンテーション
児玉さん:自由にヒトカラ(1人カラオケ)を楽しみたい!
「JOYサウンド」のアプリがリモコンになったり、曲よりも少し早めに歌詞をささやいてくれたり、非常に便利だったのですが2年くらい前になくなってしまったそうです。そこで「クラファンでアプリを復活させる!」というアイデアが出ました。さらにOCR機能がつけば歌詞カードを読み上げたり、映画の字幕や駅の電光掲示板にも使えそうという意見が出ました。
「JOYサウンド」のアプリがなくなってしまったのは視覚障害者のニーズを知らないからであって、その事実を伝えれば柔軟に対応してくれるのではないか? 他にもVoiceOverが対応することで視覚障害者が使えるようになるアプリはたくさんありそうなので、「VoiceOverに対応して欲しいアプリリスト」をまとめて公開しては?という意見も出ました。
板嶌さん:昔のようにドリフトしたい!
自動車でドリフトをする際にどの位の距離で攻めるかや、安全性など目で確認できない部分を触覚や聴覚などの感覚器官をフル稼働して運転するなど、さまざまな方向からアイデアが交わされました。スピードが出るほど締め付けられたり、壁に寄るほど壁側が圧迫される「ドリフトスーツ」をつくる、握っているハンドルや踏んでいるペダルから感覚が伝わる、それを習得するための教習所でトレーニングできる、安全性を考慮してR2-D2のようなAIロボットが隣に座ってピンチの時は助けてくれるなど、非常にブレストが盛り上がりました。
板嶌さんからは、いきなりドリフトをするのではなく、視覚以外の情報を駆使しながら段階的に練習していけば本当に実現できるかもしれないと、満足そうに話していました。
大沢さん:プラモデルを楽しみたい!
プラモデルを作る大沢さんの手元と全体をカメラで写し、二人羽織りのように映像を見ながら指示をして、一緒にワイワイと楽しみながら完成させていくというアイデアが出ました。はじめはレゴのような簡単なモノから初級・中級・上級とレベルを上げていき、最終的にはお城も作れるようになりたい。足りない部品は自分で作ることができる仕組みもあったら楽しいという意見も出ました。
見ている人も「右だ!」「左の部品だ!」などと一緒に楽しめて、大沢さんもプラモデルを作ることができる。二人羽織りとスイカ割りを組み合わせたようなエキサイティングなイベントを、ぜひ実際に体験してみたいです。
インクルーシブデザイン体験ワークショップ 視覚障害との共創に参加して
私生活の中で視覚障害者と接する機会はほとんどなく、視覚障害に対する些細なことから少し重たい疑問まで、対話を通じて解消することができました。これまで「声かけても大丈夫かな?おせっかいじゃないかな?」と感じて勇気を出せずに声をかけられなかったことに後悔しています。ここでの素敵な出会いや体験を大切に、みんなが平等に生きていける社会の実現の手助けをしたいと感じたワークショップでした。
文:PLAYWORKS.Inc インターン 小池