INCLUSIVE DESIGN Talk|大栗紙工株式会社 大栗佳代子

インクルーシブデザイントーク 「あったらいいな」に耳を傾ける。 株式会社大栗紙工 大栗佳代子

インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKSタキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回は、大栗紙工株式会社の大栗佳代子さんにお越しいただきました。長年、OEMでノートを製造してきた同社が、なぜインクルーシブデザインを取り組んだのか?「mahoraノート」の開発秘話や今後の展望などを伺いました。

発達障害者の声が“使いづらさ”をなくす。大栗紙工が目指す、理想の「mahoraノート」

発達障害当事者の声から生まれた「mahoraノート」

 

タキザワ:まずは、自己紹介をお願いします。

大栗:大栗紙工株式会社は、帳簿を製造・販売する会社として1930年に設立されました。戦後は帳簿を使う機会が徐々に減っていったのですが、子どもたちの数が多かったことから、ノートを製造する会社へと移行しました。2020年には自社ブランド「OGUNO」を立ち上げ、現在はオリジナル製品「mahoraノート」の開発・販売を手掛けています。

タキザワ:最初は、帳簿をつくられていたんですね。「mahoraノート」は私の娘も愛用していて、特にラベンダー色が気に入っているんです。このノートについて、改めて大栗さんからご紹介いただけますか?

大栗:「mahoraノート」は、発達障害当事者の声に耳を傾けて生まれた目にやさしいノートです。目の負担を軽減する国産色上質紙を使用。レモン色のノートには、太線と細線が交互に入った罫線を、ラベンダー色のノートには網掛けの帯を採用しています。通常の紙に比べて約10%厚くなっているため、強い筆圧で書いても次のページに与える影響は少なく、消しゴムで消す際にも紙がくしゃくしゃになりにくいです。
また、表紙のデザインや各ページの上部にある日付記入欄などの情報が気になって集中できないというお声から、罫線だけを取り入れたシンプルなデザインに仕上げました。糸とじノートの糸の端っこが気になる方もいらっしゃったので、長年ノートの製造に携わってきた弊社の製本技術を活用し、耐久性に優れた無線綴じ製本も実現しました。2020年2月には、自社のECサイトで各3,000冊のテスト販売を実施。好評だったことから、現在は販路を広げて販売しています。

 

タキザワ:ありがとうございます。どういった経緯でmahoraノートの開発に至ったのでしょうか。

大栗:きっかけは、発達障害当事者を支援している一般社団法人UnBalanceとの出会いでした。ふだん何気なく使っているノートですが、発達障害当事者にとっては何かしらの困りごとを抱えていることを知ったんです。それまでは、当たり前のように一般的なノートを製造・販売し、お客様が購入してくださっていたので誰にとっても使いやすいものだと思っていました。だからこそ「一般的なノートが使いにくい」という意見には、とても衝撃を受けました。長年ノートの製造に関わっている弊社の知見を活かして、悩みを抱える方にも使いやすいと思っていただけるようなノートを作れないか。そう思って、企画の初期段階から発達障害当事者に協力いただき、製品の開発にチャレンジしました。

 

「ノート=白いもの」という思い込みに隠された、書きづらさ

 

タキザワ:実際どれくらいの方にヒアリングやアンケートを実施されたんですか?

大栗:100名くらいですね。ヒアリングをした結果、「光の反射が眩しい」「罫線の識別が難しい」「余計な情報が気になる」という3つの課題が浮かび上がったんです。白い紙だと、光の反射が眩しくて字が書けなかったり、読めなかったりする方もいらっしゃるんです。罫線の識別が難しく、まっすぐ書けなかったり、書いているところを見失ったりしてしまう。他にも、各ページの上部にある「No.」の文字が気になって集中できない、などといった悩みを発見しました。

 

タキザワ:なるほど。今まで「ノート=白いもの」と思い込んでいたので、なかなか気づきにくい課題ですね。mahoraノートには、淡い色が使われていますよね。

大栗:はい。実は淡い色だけでなく少し濃い色もテストしたのですが、あまり人気がなくて……。やはり、濃すぎると書きづらいですし、そもそも見慣れた白いノートとはかけ離れた濃さなので、違和感を感じられる方が多かったようです。

タキザワ:たしかに、違和感はありそうですね。ノートに採用した2種類の色は、どのように選ばれたんですか?

大栗:まずは数ある紙の中から、鉛筆やペンなどあらゆる筆記用具を試して筆記性の高い紙を選びました。次に13色のサンプル紙を用意して発達障害当事者に見ていただき、眩しさが気にならなかった色をアンケートで集計。この結果をもとに、中紙を選定しました。

タキザワ:mahoraノートは、罫線も特徴的ですよね。太・細交互横罫と網掛横罫を見て「これはすごい発明だ」と感動しました(笑)。どうやって開発されたんですか?

大栗:はじめは「罫線の幅を広くすれば書きやすくなるのでは?」と単純に思っていたのですが、ヒアリングを通して罫線そのものがストレスになっている方がたくさんいらっしゃることに気づきました。ヒントになったのは、弊社の日報で活用しているExcelです。互い違いに行の色を変えることで一つひとつの行が見やすくなることから、網掛けで色の強弱をつけた網掛横罫と、太い罫線と細い罫線を交互に置いた太・細交互横罫のサンプルを作りました。「見やすい」とお声をいただき、お客様の要望に応えて両方とも採用しました。

 

目指すは、誰にとっても「使い心地の良いノート」

 
タキザワ:初めてmahoraノートを手に取った時はシンプルな見た目だなと感じたのですが、そこに至るまでに様々なプロセスが踏まれていて、すごく感動しました。自社ブランドを立ち上げる構想はあったんですか?

大栗:いつかは自社ブランドを立ち上げたいと思っていましたが、材料の調達や販路などを考え出すと、最初の一歩がなかなか踏み出せませんでした。私たちを突き動かしたのは、これまで自信を持って製造してきたノートに対して「使いづらさ」を感じている人がいるという衝撃的な事実でした。

タキザワ:「こういうノートを作れば、困りごとが解決できそうだ」といった構想ははじめから持たれていたのでしょうか?

大栗:全然なかったんです。「白い紙は眩しい」というお声だけはすでにいただいていたので、真っ先に「白い紙から離れよう」という考えは持っていました。それ以外については、ヒアリングしながら具体的な解決策を模索していきました。

タキザワ:「mahoraノート」の由来も教えてください。

大栗:住みごこちのいいところという意味を持つ「まほろば」という大和言葉から「mahora」と名付けました。使い心地の良いノートとだと感じていただけたら嬉しいですね。

タキザワ:mahoraノートは、いろいろな賞も受賞されていますよね。

大栗:ありがたいことに、発売に関するプレスリリースを配信したところ、新聞を始めとした様々なメディアに取り上げていただきました。これまでOEMでノートを製造していたこともあり、直接お客様の声を聞くことはありませんでしたが、mahoraを発売したことでたくさんのメッセージをいただけるようになりました。

 
タキザワ:他に、mahoraノートを知ってもらうために工夫されたことはありますか?

大栗:アワードにも挑戦しました。第30回 日本文具大賞2021では、デザイン部門で優秀賞を受賞。 2021年度グッドデザイン賞では、ベスト100に選ばれました。他にも、複数の賞を受賞しています。また、お客様の要望に応えてmahoraシリーズを36アイテムに拡充し、販売することが決定したことから、2021年1月にクラウドファンディングを実施しました。840%を超える支援をいただき、190名の方にノートが行き届きました。

タキザワ:発達障害者を支援するプロジェクトも実施されていましたよね。

大栗:ペイ・フォワードmahoraノートプロジェクト」ですね。これは、限定デザインのmahoraノートを1冊お買い上げいただくと、発達障害のある方を中心にmahoraノートが2人に寄付されるものです。2023年8月時点で、約3,100冊のノートが寄付されています。引き続き、mahoraノートを必要とされている方にお届けしていけるよう、努めていきます。

 

「コミュニティ」から次世代ノートを創造するには?

 
タキザワ:ここからは、タキザワとの壁打ちコーナーに移りたいと思います。相談したい内容をいただけますか。

大栗:はい。障害のある方々とコミュニケーションを取れるコミュニティを作っていきたいのですが、どうしたらいいかわからず、何かアドバイスをいただけるとありがたいです。

タキザワ:コミュニティを作る目的は、主に困りごとを聞くためですか?

大栗:1番は、そうですね。やはり「何があれば便利なのか」「どういったものがほしいのか」などをヒアリングできれば、私たちが取り組めるものもあるかもしれません。既存商品に対するフィードバックをいただければ、改良や新商品にもつなげられます。小さい会社だからこそ、世の中にはない新しい商品を打ち出してインパクトを与えていきたいです。

タキザワ:なるほど。今後も新しいプロダクトを少しずつ展開していきたいんですね。現在、自社ブランドである「OGUNO」に注力されていますが、そこで認知を獲得することでOEM事業にもつながっているんですか?

大栗:残念ながら、今はそうではないんです。ただ、今後はOEM事業にもつなげていきたいです。

タキザワ:だとしたら、OEM事業がスケールするような導線を設計したほうが良いかもしれないですね。毎回ヒットするような新しい製品を作り続けることは結構大変ですから。コミュニティに参加する方々の意見を踏まえて新しい製品を開発することは、大栗さんの経営戦略にも関わること。誰を集めるかがすごく重要ですね。他にも「ノートの製造技術を応用して、幅広くチャレンジするのか」「デジタルを活用したプロダクトを開発するのか」など、目的によってどういったコミュニティを作るべきか変わりますね。

大栗:弊社の名前に「紙工」という文字があるように、紙にまつわる新たな製品を展開していきたいです。

タキザワ:mahoraノートが発達障害当事者の声によって生まれたように、視覚障害者や聴覚障害者など異なる障害を持たれている方との出会いは、新たなアイデアを創発しやすいと思います。やはり尖った新しいものを作るのであれば、異なる視点や意見を持つ方々との出会いは欠かせないですね。他にも、推し活からヒントを得るのも良いかもしれません。推し活グッズを購入している方にインタビューしてインサイトを見つけ、ニーズにあわせて尖った商品をつくるのもありですね。

 

大栗:タキザワさんが考えるノートのアイデアがあれば、ぜひ教えてほしいです。

タキザワ:たとえば、X(旧:Twitter)のノート版。X離れした方向けに、手書きで毎日つぶやけるノートを開発するのはどうでしょう。ちゃんと140字に収まる枠とXのアイコンが用意されていて、1日1ページ書けるようになっている。そういった社会的なニーズと掛け合わせるのは良いかもしれませんね。他には、スマートフォンケースと一体になったiPhoneサイズのノート。いくらスマートフォンでメモを取れる時代とはいえ、手書きでメモしたい時はありますよね。そこで、同じサイズのノートがあれば、スマートフォンケースと併用して使えるかもしれません。

大栗:コミュニティづくりのアドバイスもぜひお願いします。

タキザワ:時間をかけて丁寧にコミュニティを作るのであれば、地元に根ざしたオープンな場所を作ったほうが良いですね。もし、いきなりコミュニティを作るのはハードルが高いようであれば、大栗紙工で働かれている社員の皆さんがそれぞれ興味のあるコミュニティを見つけ、そこから新しいニーズを掘り起こしていくのが良いかもしれません。そういった文化を醸成してみてはいかがでしょうか。

大栗:とても参考になります。

タキザワ:そろそろお時間になりましたので、最後に今後の展開について教えてください。

大栗:現在、小学生向けのノートを開発しています。数あるご意見の中で、一番早くからいただいていたのが「小学生向けのmahoraノートがほしい」というお声でした。小学生はマスのノートが使われているので、既存のmahoraノートは使えないんです。どうしたらmahoraらしいマスノートを作れるかずっと考えていたものの、うまく形にならなくて……。ようやくイメージが固まり、開発を進めています。年内を目安に作っていきたいですね。

タキザワ:楽しみですね。これからも活躍、期待しています!

 

 

PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel

https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign

 

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