REPORT|インクルーシブデザイン体験ワークショップ:視覚障害者との共創
PLAYWORKS株式会社は、障害者など多様なリードユーザーとの共創からイノベーションを創出する、インクルーシブデザイン・コンサルティングファームです。今回は2023年8月29日に開催された「インクルーシブデザイン体験ワークショップ:視覚障害との共創」について、目次ほたるがレポートします!
視覚障害者との対話から、新たな価値を共創する。
「視覚障害者との対話から、新たな価値を共創する」をテーマに、リードユーザーである視覚障害者4名を含めた計20名で、「体験」「対話」「共創」によって、インクルーシブデザインを知る3時間のオンラインワークショップを行いました。実施したプログラムはこちら。
- 自己紹介
- 視覚障害者リードユーザーの紹介
- 視覚障害者との共創事例の紹介
- 対話:視覚障害者からの問いかけ
- 対話:晴眼者から視覚障害者への質問
- ブレスト:障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいこと
- プレゼンテーション
まずは、「視覚障害を体感する」自己紹介
自己紹介は、条件とテーマを変えながら、2名グループをシャッフルして3回行いました。
1回目:最近のマイブーム(カメラON、マイクON)
1回目の自己紹介は通常の状態。ワークショップにどんな方が参加しているのか、少し緊張しながらも、「最近のマイブーム」について会話が盛り上がります。
2回目:最近、買ってよかったモノ(カメラOFF、マイクON)
続いて、カメラをOFFにして自己紹介をしてみると、表情やジェスチャーなどの視覚情報がない分、やや話しづらいと感じました。とはいえ、音声のみの通話と同じ条件と考えると、それほど違和感はありません。
3回目:最悪な出来事(カメラONで目をつぶる、マイクON)
最も難易度が高かったのがカメラとマイクがONで、目をつぶった状態での自己紹介。カメラに自分の顔が写っているのに、目をつぶらなくてはいけない状況は、気恥ずかしさとともに、やや警戒心が湧いてくるのに気が付きました。緊張感が増し、話すのもぎこちなくなるので、1・2回目の自己紹介に比べて、会話も盛り上がりません。
今回はビデオ通話だったので、音声はパソコンやスマホなどのデバイスからしか聞こえませんが、もし目をつぶっている状態で急に後ろから話しかけられたり、身体に触れられたりしたら、きっとすごく怖い。視覚障害者の方への適切な声掛けの重要性を実感した自己紹介タイムでした。
視覚障害リードユーザーを紹介
続いて、視覚障害リードユーザーのみなさんが自己紹介をしてくださいました。今回参加されたのは、こちらの4名。
ミサトさん
生まれたときから目に病気があり、18歳までは弱視で白杖なしでも外出できるくらいの視力があった。現在は病気の進行によって、両目共に全盲に。現在は株式会社ePARAという、eスポーツを通じて障害者の社会参加や就労機会を作る会社で働いている。
あさひさん
物心付いたときから弱視で、視界の中心にまったく見えない部分がある状態(中心暗点)。矯正視力が0.02程度で、画面や文字は拡大しないと見えないため、工夫をしながら生活している。仕事の傍らでは、YouTubeチャンネル「あさひ 旅するロービジョン」で視覚障害に関する発信活動を行っている。
ナカザワさん
後天性の弱視。もとは視力1.5程度あったところから高校2年生の冬に難病になり、現在は視力0.01程度。飲料メーカーでマーケティング職に従事する傍ら、学校での講演や企業研修の講師、ロービジョンフットサルのパラアスリートとして活動、中小企業の社外顧問、モデルなど幅広い領域で活動している。
ミヨシさん
右目が全盲、左目が針の穴程度の見え方。暗いか明るいかは判断できるが、人の顔の認識は難しい状態。高校生のときに病気が判明し、社会人になってから進行、そこから2〜3年で失明した。現在は、都内で美容師を6年やっているが、最近は視力低下によってカットやカラーが難しくなり、ヘッドスパを中心に施術している。お客様からは「頭痛が無くなる」と大好評。
それぞれの自己紹介を聞いてみると、一口に「視覚障害」と言っても、視力や見え方が違うのはもちろんのこと、仕事や生き方もまったく違うことがわかります。視覚に障害があるというだけで、1つの生き方にカテゴライズされるわけではありません。にも関わらず、それぞれの違いに驚いたことは、私の中でまだまだ障害を持って暮らす人々への理解が足りないのだと気付かされました。
左上:ミサトさん 右上:あさひさん 左下:ナカザワさん 右下:ミヨシさん
視覚障害者から晴眼者に問いかける
自己紹介も終え、いよいよワークショップの本題へ。まずは、視覚障害者から晴眼者が質問を受けるという体験ワークを行いました。障害者とのコミュニケーションというと、健常者から障害者へ日常生活の困りごとについて聞いてしまいがち。しかし、今回は逆に障害者から健常者が質問されてみることで、健常者の日々の思い込みや新たな気づきが浮かび上がっていきます。私が特に考えさせられたのは、こちらのミサトさんからの質問でした。
白杖を持っている視覚障害者が、スマホを使っていたら、どう感じますか?
実は、私はインクルーシブデザインについて学ぶようになって初めて、視覚障害者がスマホを使えることを知りました。今回のワークショップではそんな前提知識があったため、「白杖を持っている視覚障害者が、スマホを使っていてもなんとも思わない」と答えられました。でも、きっと以前の私は「スマホを使えるのだから、それほど助けなくてはならない存在ではないだろう」と思い込んでいたはず。
実際にミサトさんも、白杖を持って電車に乗っている際、他の乗客に席を譲ってもらったときは、気を遣ってスマホを出すことができないのだそう。「申し訳なく感じて、障害者らしくしてしまうんです」というミサトさんの言葉に、自分の理解不足が、障害者の方が自分らしく生きる時間を阻んでしまうことがあるのかもしれないと、ハッとしました。
この他にも、参加者はリードユーザーからたくさんの質問を受け、「考えたことがなかった」「思っていたよりも、難しい質問だ」と悩みながらも、自分なりの答えを少しずつ出していきます。実際に障害のある世界で暮らし、切実な悩みを持つリードユーザーからの問いだからこそ、参加者側も回答を出すことへの真剣度が増します。そして、参加者はリードユーザーからもらった問いを日常生活でも考えてみて、自分でも新たな視点を持って社会に対して問いを立てられるようになることが、インクルーシブデザインの第一歩なのではないかと思うワークでした。
晴眼者から視覚障害者へ質問する
次は、晴眼者から視覚障害リードユーザーへの質問タイムです。先に質問を受けたからこそ、リードユーザーへの理解度が上がり、より深みのある質問へと展開されていきました。
視覚障害者から健常者を見て、逆に不便そうだと感じることはありますか?
回答:僕は虫が苦手なのですが、晴眼者は虫も見えてしまうから、すぐに気がついて、不快な思いをするのが大変そう。視覚という世界観で生きていないので、見たくないものを見なくていいのが助かっています。虫に気が付きたくないので、晴眼者は虫がいても僕には教えないでもらいたいんですよね(笑)。
自分が見られることは、普段どのくらい意識しますか?
回答:「視覚障害者だから」という偏見を持って見られることはあると思うので、身だしなみや声のトーンは意識しています。美容師をやっている仕事柄、身だしなみをきれいにしておくのは大事なので、見られる意識は人より強いかもしれません。
自己紹介や体験ワークを通じて、だんだんと打ち解けてきたからか、仕事や恋愛、人生観などそれぞれの価値観を素直に話し合う時間になりました。リードユーザーと関わった経験が少ないからか、思ったよりも本音で話してしまう自分自身にも驚きます。また、他の参加者の質問を聞いていると、自分では思いつかないようなユニークで新しい視点の質問がたくさん出てきて、「自分も、もっといい質問がしたい!」と少し悔しい気持ちに。ただリードユーザーの困っていることや悩みを聞くのではなく、「新たな発想に繋がるような質問をしよう」という雰囲気があるところが、このワークショップの面白いところです。
「障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいこと」を叶える
ワークショップもいよいよ終盤へ。今回のテーマでもある「視覚障害者との対話から、新たな価値を共創する」を実現するために、リードユーザーの「障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいこと」を叶えるためのブレストを行いました。リードユーザー4名から出た、チャレンジしたいことはこちら。
それぞれの参加者が興味のあるテーマごとにチームに分かれ、話し合います。一見簡単そうに見えて、よくよく考えてみるとさまざまな課題が出てくるテーマの数々。はたして、どんなアイデアが出てくるのでしょうか?
チームごとにアイデアをプレゼンテーション!
ミサトさん:スマホアプリ「リズムゲーム」を楽しみたい!
ミサトさんによると、「視覚障害者向けのリズムゲームはあるものの、自分の好きなキャラクターや作品がコラボしている人気スマホゲームをやってみたい」というのが、このテーマの大きな課題です。視覚障害者でもできるように簡易化されたリズムゲームに対し、人気スマホゲームは、たくさんの音と、それに伴う素早いタップのスピードについていけないのだそう。
そこで、リズムゲームの音を聞き分けて、素早くタップできるよう、振動の強弱や音の違いでリズムゲームを楽しむというアイデアが出ました。タップするタイミングが近づくにつれ、少しずつデバイスの振動が強くなるというアイデアが画期的で、「これなら私でもできそうです!」とミサトさんにもお墨付きをもらえました。
あさひさん:相手の目を見て話したい!
中心暗点で視界の中心が見えないあさひさんは、無意識に瞳が少し上向きになってしまうため、人の顔をまっすぐ見ることができないのが悩みなのだそう。そんな課題に対して、視覚情報ではない形で、まっすぐ見れているということが認識できれば、人の目を見て話せるかもしれないという発想に切り替えることにしました。
そこで、自分の黒目と相手の黒目があったときにバイブレーションで教えてくれる眼鏡デバイスを考案。
「目を見て話したい」という悩みから、「そもそも目が合うとはどういうことか?」という原点に立ち返った議論ができたことで生まれたアイデアです。
ナカザワさん:晴眼者と一緒にゲームを楽しみたい!
「晴眼者とゲームを楽しみたい」というテーマをもとに、ナカザワさんが飲み会でよくダーツを楽しむというエピソードから、「新しいダーツを考案しよう」と考え始めたこちらのチーム。家で気軽にできるゲームにしたいものの、現在のダーツの形では、広い部屋が必要なうえに、安全性も保証されていないことが問題点として挙げられました。
そこで考案されたのが、「バイブレーションと音を使った新しいダーツ」の形です。まず、ダーツのデバイスにイヤホンをつけると、左から右の音が流れます。そして、音がちょうど真ん中にくるタイミングでダーツを投げ、仮想の的に当たれば音とバイブレーションが出るという設計です。このアイデアの面白いところは、ダブルスコアなど得点を重ねていくうちに音やリズムの種類が増え、最終的に音楽が完成していくところ。「音楽を完成させることをゴールにゲームを行う」という、音楽のエンタメ性とダーツのゲーム性を組み合わせたアイデアにナカザワさんも喜んでくれました。
ミヨシさん:車を運転して旅行に行きたい!
車を運転したいけれど、視覚障害で運転ができないという悩みを持つミヨシさんに対して、こちらのチームでは「そもそも、なぜ車を運転したいのか」という根本の課題を聞くことに。すると、ミヨシさんからは「視覚障害があると、目的地がどこなのか認識できないから、一人でふらっと気軽に出かけることができない」という悩みが出てきました。
そこで、「小型の自動運転モビリティをスマホを連動させて、目的地に連れていってもらえるようなシステムを作れば、危険性の高い車じゃなくても移動ができるようになるかも」というアイデアが生まれました。「車の運転がしたい」という表層に出てくる悩みに囚われるのではなく、その根本にある「一人で出かけられない」という課題を見つけることができたのが、このチームの素晴らしいところです。アイデアを受けて、ミヨシさんも「そんな移動手段があれば、出かけるのが楽しくなりそう」と言ってくれました。
ワークショップ後の参加者からの感想
3時間に渡るワークショップが終了し、参加者の皆さんからは、たくさんの感想をいただきました。
- 日々の事業開発系の業務で、ユーザーのことを理解できているという思い込みがいかにアイディアを狭めるかを実感しました。今回のように理解できていない(無知)を思い知るところからスタートするとブレストの質が格段に上がる気がします。
- リードユーザーの方々を通して、未知の世界に触れることができ、自分が「知らない」ことに対して、勝手に壁を感じていたのだということに気づきました。対話することの大切さと、共創の楽しさを実感できました。
- 普段、何気なくおこなっていること(例えば「目を見て話す」など)に対して、あらためて考え直し、解像度を高めることができました。また、実際にリードユーザーとともに考えることで、「きっとこうだろう」という思い込みから脱却できるので、素晴らしいやりかただなと思いました。
「インクルーシブデザイン体験ワークショップ:視覚障害者との共創」まとめ
健常者に最適化された社会を生きていると、どこに障害者の悩みが隠れているのか、なかなか気がつくことができません。今回のワークショップのように実際に悩みを持っている当事者と話し合うことで、自分自身の無知を実感し、「恥ずかしい」「申し訳ない」という生々しい感情を持つことで、当事者の悩みを自分ごと化できるのではないかと感じました。
その一方で、ワークショップ中に主催者であるタキザワさんが言っていた「悩みに共感するだけでは、イノベーションは生まれない」という言葉が印象に残っています。悩みや苦労に共感するのは簡単なことですが、そこからもう1段階ジャンプして新たなアイデアや価値を生み出すためには、悩みをさらに深掘りして考え、その根本にある課題を解決する新たな視点や発想を生み出す必要があるのではないでしょうか。
今回のワークショップでは、自己紹介という「対話」の助走から始まり、リードユーザーから「問い」を受けることを通じて、自分自身も社会に向けて「問いを立てる練習」ができたと思います。その過程を経験してから、対話に慣れた状態でリードユーザーがチャレンジしたいことを叶えるアイデアを、リードユーザーと一緒に考えることができたわけです。
実際にプレゼンで発表されたアイデアを見てみると、「障害者の悩み」というマイナスの状態を、健常者に合わせたゼロの状態に引き上げるのではなく、視覚障害リードユーザーだからこそ楽しめるような新たな視点でアイデアの種が生まれていると感じます。
「視覚障害」と一口に言っても、その先にはそれぞれが懸命に向き合っている人生があります。その人生を、一人ひとりが自分らしく生きられる世の中を実現する新しい発想は、ワークショップで実際に行ったような「対話」によって生まれるのだと体験できた時間でした。
文:目次ほたる(めつぎ・ほたる)
都内在住のフリーライター。家事代行業、スタートアップ企業の経理事務、ライターアシスタントなどを経て、2019年に独立。現在は、生き方や社会課題、地域の魅力発掘など幅広いジャンルで、取材記事やエッセイなどを手掛けている。SNSでは、「ままならない日々を心地よく耕す」をテーマに発信中。