INCLUSIVE DESIGN Talk|オリィ研究所 高垣内文也

INCLUSIVE DESIGN Talk オリィ研究所 高垣内文也 移動困難者の選択肢を豊かに

インクルーシブデザインの第一線で活動するゲストと PLAYWORKS タキザワが、インクルーシブデザインの価値や可能性について、対談形式で探究する「INCLUSIVE DESIGN Talk」。今回は分身ロボット「OriHime」を開発・提供している、オリィ研究所の高垣内文也さんにお越しいただき、「OriHime」の活用事例、移動困難者の就労支援に向けた取り組み、今後の展望について伺いました。

分身ロボット「OriHime」は、心のどこでもドア ─ 移動困難者の働くをサポートする

“心のどこでもドア”としての分身ロボット「OriHime」

 

タキザワ:まずは、オリィ研究所について紹介をお願いします。

高垣内:オリィ研究所は「孤独を解消」というビジョンを掲げ、「移動困難者の選択肢を豊かにする」というミッションのもと、4つのサービスを展開しています。
1つ目は、弊社の主要プロダクトである分身ロボット「OriHime」です。見た目はロボットですが、人工知能を搭載したAIロボットではなく、人が操作して首や手を動かせるのが特徴です。何らかの状況によって家から外に出ることが難しい方が、「OriHime」を通して仲間と同じ瞬間を共有したり、誰かの役に立つことをしたり、自分にあった働き方をしたりすることが可能になります。シリーズ展開もしており、一番小さいサイズが「OriHime」です。全長120cmある「OriHime-D」は、遠隔で接客したり、ものを運んだりするなど身体労働を伴う業務を可能にします。「OriHime-T」は、カートユニットを接続し、移動機能を追加。デバイスを通して、フロアも移動します。

2つ目は、文字入力や合成音声でのスピーチができる意思伝達装置「OriHime eye+Switch」です。ALSなどの病気が進行してしまい、言語や肢体に障害のある方が、視線入力装置やスイッチを使って文字を打ち込むことで、相手とコミュニケーションを図ることができます。

3つ目は、分身ロボットカフェ 「DAWN ver.β」です。2021年6月に東京の日本橋でオープンし、現在は全国にいる移動困難者が「OriHime」や「OriHime-D」を操作しながら働いています。その他、年に2回、期間限定ショップも運営しており、2022年は福岡と札幌、2023年は京都と広島で開催しました。

最後に4つ目は、障害者向け人材紹介サービス「FLEMEE」です。移動困難者が完全フルリモートで働ける企業を紹介しています。

このように、私たちは全ての移動困難者が社会に参加したり、自分らしく生きられる環境づくりを目指して、サービスを展開しています。

 

ロボットが生む、自然発生的なコミュニケーション

 

タキザワ:ありがとうございます。では「OriHime」について詳しく伺っていきたいと思います。「OriHime」は、自分が移動する代わりに遠隔でのインターフェースを担ってくれるんですよね。

高垣内:はい。わかりやすく言うと「心のどこでもドア」のようなイメージです。身体がどんどん不自由になっても、心が元気であれば、様々な場所に移動できます。

タキザワ:たしかに、心さえ移動できれば、孤独は解消できそうですね。「OriHime」の顔は無表情のように見えますが、あえてそのようにデザインしたのには何か理由があるのでしょうか?

高垣内:その人らしさが表れることを大事にしました。例えば、男性的、女性的なシルエットに固定してしまうと、使う人を選んでしまいますよね。あえて能面にすることで、声や首の動かし方にすごく個性が現れます。
はじめは「OriHime」というロボットと接しているのだと捉えていても、「OriHime」を操作しているパイロットさんと話をしていくうちに、顔を知らなくてもその方そのものに見えてきます。帰る時には「〇〇さん、バイバイ」と手を振って別れるくらい、相手が勝手にパイロットさんを想像してキャラクターを作っていくんです。

 

タキザワ:コミュニケーションを通して、解像度が上がっていくんですね。面白いです。「OriHime」は現在、どのようなシーンで使われているのでしょうか?

高垣内:主に教育現場で使用されています。「OriHime」は移動困難者の就労支援をしていますが、それ以前に教育を受ける権利を守る必要があると思っています。精神的な問題を抱えて学校に通えなくなってしまった方や、がんなどの病気で病院にいなければいけない子どもに対し、遠隔で教育を受けるためのツールとして活用いただいています。

タキザワ:様々なオンラインビデオツールが普及していますが、あえて「OriHime」を使うのには、何か大きなメリットがあるのでしょうか?

高垣内:生徒みんながオンラインビデオツールを使っている状況であれば、移動困難者も同様の方法で参加して良いと思うのですが、みんなが現地にいる中で一人だけオンラインビデオツールを介して授業に参加することは寂しいと思います。むしろ、孤独を助長するのではないかと。
「OriHime」であれば、近くにいる同級生も気軽に話しかけてくれるため、学校内でのコミュニケーションも生まれやすくなります。その結果、自分の居場所を感じられるようになるのではないでしょうか。

タキザワ:「OriHime」があれば、クラスの人気者になれそうですね(笑)。

高垣内:そうですね。旅先でも「OriHime」を持ち歩いていると、いろんな人が話しかけてくれます。現地の人と自然発生的にコミュニケーションが生まれることで、パイロットにとっても、まるで現地にいるかのような感覚が醸成されているのではないでしょうか。

タキザワ:なるほど。最近、仕事で在宅勤務が増えていますが、オフィスに「OriHime」を置くだけでも雰囲気が変わりそうですね。

高垣内:まさに、私たちも仕事で活用しています。オリィ研究所では、「OriHime」の普及に向け、全国に出向いてお客様とお話する機会があります。ただ、予定によっては私がその場に出向くことが難しい場合もあるため、チームメンバーが「OriHime」を持ち歩いてお客様と直接会い、私が「OriHime」越しに話をする機会もあります。パソコンやテレビのディスプレイに自分の顔を映して話すのも良いのですが、「OriHime」であれば見た目がロボットなので、より心理的なハードルが低くなると感じています。

タキザワ:ロボットという形があることで、コミュニケーションのあり方に変化が生まれているんですね。「OriHime」は様々なリアクションもできるので、見ていて可愛いですし、楽しそうですね。

高垣内:時々、大勢の人がリアルで集まっている会議に、オンラインビデオツールから参加すると「首を動かすように、画面を動かしたいな」と思うことがあるんです(笑)。「OriHime」であれば、顔を動かしながら話を聞けるので、周囲の人からもちゃんと聞いてくれているんだなと安心感があると思っています。

 

解決すべき課題は、移動困難者の働きづらさ

 

高垣内:次に、私たちが「移動困難者」と呼んでいる人々の定義と、「OriHime」を使った解決方法についてご紹介します。
私たちが定義している「移動困難者」は、大きく3つにわかれます。1つは、身体的要因です。例えば、自足歩行が困難な車椅子ユーザーや介護が必要な高齢者、難病の方などが挙げられます。2つ目は、精神的要因です。統合失調障害やパニック障害などの精神疾患の方はもちろん、引きこもりなど体は元気だけれども何らかの精神状態によって外に出るのが困難な方です。3つ目の環境的要因は、医療的ケア児のご家族や、認知症患者を介護されている方、子育て中の方など、環境的要因によって移動が困難な方に当てはまります。
いま挙げた3つの要因を見ると、移動困難者は、実はすごく身近な話題であることがわかります。人は誰でも年を取りますし、ひょっとしたら事故にあって体が動けなくなるかもしれません。ただ、移動困難者が社会とつながらなくて良いのかと問われれば、けっしてそうではありません。孤独になることで、不健康になったり、離職につながったりと様々な悪影響が出てしまいます。そこで、私たちは「OriHime」を使って、人材不足の解消と障害者雇用の支援を実施しています。

 

高垣内:皆さん、ご存知のとおり、日本の人口減少に伴って、労働人口もどんどん減っています。AIによる代替が難しい業種・業界では人材獲得の競争が生まれています。また、障害者の法定雇用率は2024年4月に2.5%、2026年7月からは2.7%に上がります。しかしながら、障害者をどのように雇用したら良いかわからず、困っている企業も少なくありません。そこで、「OriHime」が役立ちます。人手不足の解消を目的とした事例ですと、東京都小平市にある病院では、病院内の業務DXに向けて「OriHime」を導入いただきました。
2024年5月からは総合受付として「OriHime-D」を設置し、新患・再診・お見舞いなどを案内するコンシェルジュとしての役割を担ってもらいます。診察室がわからなくて迷子になっている方や自動精算機の使い方がわからない方もいらっしゃるので、声がけなどを通して患者さんがすぐに相談できる環境を病院内で作りたいと考えています。
さらに、ある高齢者施設では、人手不足に伴って高齢者の方とのコミュニケーションにあまり多くの時間が割けないという課題を抱えていました。「OriHime」を使ったコミュニケーションはもちろん、一緒に体操したり、歌を歌ったりレクリエーションの支援なども行っています。

 

タキザワ:障害者雇用については大手企業でも悩まれているケースが多く、特に定着率の面では課題もあると思います。そこに対して、「OriHime」を導入することはニーズもあるでしょうし、ポテンシャルも感じますね。

高垣内:障害者雇用であっても、これまでは会社に行けることが前提の仕組みとなっていました。実際に障害者雇用で働ける人は、軽度の身体障害者で、肢体に重度の障害がある方の就職率は一桁%程度。
さらに最近多いのが、精神的な問題で働けていない方です。身体的な移動は可能でも、人とコミュニケーションを取ったり、大勢がいる中で働くのが苦手だったりする方もいらっしゃいます。そういった方が働ける環境をしっかりと整えていきたいです。

タキザワ:「OriHime」があれば、そういった方でも働くことにチャレンジできるということですね。

高垣内:「OriHime」を使った就労支援で驚いた出来事があったんです。ある精神的な難しさを抱えていた方で、直接お話した時は、話すのが難しそうだなと感じたのですが、いざ「OriHime」を通して接客を担当いただいたところ、すごく饒舌にお話されていたんです。それを見た時に、自分の働きやすい環境を整えられれば、パフォーマンスを発揮できるのだと思いました。逆に、そういった方々の能力をこれまで上手く活かすことができなかったのは、社会にとって大きな損失だったと改めて思いました。

タキザワ:いろんなシーンで「OriHime」が活躍しているんですね。

高垣内:はい。他にも、製薬会社のブース展示など「OriHime」を使ったイベントのサポートも、年間数十件ほど対応させていただいております。

タキザワ:高垣内さんのお話を聞いて、だんだん「OriHime」が欲しくなってきました(笑)。私も、展示会に参加する機会は多いのですが、10、11月になると被ることが多いんです。今年もすでに3つイベントが重なってしまって… 「OriHime」を各イベント会場に1台ずつ置ければ、一人で3つのイベントに参加できますよね。まさに分身ですね。

高垣内:そうなんです。よく「『OriHime』を導入したら何ができるんですか?」と聞かれることがあるのですが、それはパイロットさん次第なんです。「OriHime」を使えば、講演やファシリテーションなど、いろんなことができます。

 

離れて暮らす家族とのコミュニケーションに、「OriHime」を

 

タキザワ:ここからは、タキザワとの壁打ちコーナーです。私と一緒に考えたいことがあれば、教えてください。

高垣内:移動困難者が社会で働けるようにするためには、社会実装が欠かせません。「OriHime」の認知は一定数取れているものの、実際に「OriHime」を活用して働いている方は、まだ一部にすぎません。1,000人、1万人、10万人と規模を拡大させていくにはどうしたら良いでしょうか?

タキザワ:広く普及させる上で、移動困難者はもちろん、そうでない方も当たり前のように「OriHime」を使っている社会を実現できると良さそうですね。現状は、toBのお客様が多いと思いますが、toC向けのお客様を増やしていくのが良いかもしれません。家族の一員として、一家に一台「OriHime」があるような状態を目指したらどうでしょうか。

高垣内:そうですね。今のお話を聞いていて思いついたのですが、外国に駐在されている方は、日本で暮らす家族とは一緒に過ごせないがゆえに、子どもの成長過程が見られません。家族の一員として、当たり前に自分の分身がご家庭にあれば、また違った価値が見いだせるかもしれません。

タキザワ:ご飯を食べる時だけ、テーブルに「OriHime」を置いて会話するのも素敵ですよね。

 

高垣内:「今日学校どうだった?」といった何気ない会話は、おそらくオンラインビデオツールをつなぐほどではないと思うんです。同じ空間に一緒にいる感覚で話をするには「OriHime」を用いるのが良いのだと思います。

タキザワ:何らかのヒントになれば嬉しいです。

高垣内:ありがとうございます。改めて、今後の戦略を考えるきっかけになりました。今後も、移動困難者の選択肢を豊かにすべく、テクノロジーと掛け合わせて支援していきたいです。

タキザワ:本日はどうもありがとうございました!

高垣内:ありがとうございました!

 

 

PLAYWORKS : INCLUSIVE DESIGN channel

https://www.youtube.com/@playworks-inclusivedesign

 

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