REPORT|FRAGRANCE DIALOGUE ワークショップ

INCLUSIVE DESIGN Column フレグランスダイアログ ワークショップレポート

フレグランスデザイナー Harunaさんと、言葉のデザイナー 加来幸樹さんが活動されている「香りと言葉のワークショップ」と、PLAYWORKS がコラボレーション。2022年9月12日、「FRAGRANCE DIALOGUE(フレグランス・ダイアログ)」として実験的に開催したワークショップについてレポートします!

触覚と香りを頼りにお菓子を食べる

今回はパラクライミング日本代表の濱ノ上さんと、モデル活動を行う工藤さんに、視覚障害リードユーザーとしてご協力いただき、まずはじめにアイマスクをして見えない状態でお菓子を食べる「目隠しお菓子ゲーム」をしました。

工藤:ハッピーターンは持っただけで、すぐに分かりました。

Haruna:ハッピーターンは形がわかりやすいから安心したけど、わからないものは口に入れるのは怖いです。例えば、同じ形でも複数の味があるお菓子は、パッケージが見えないと味の判別が難しいそうです。薬のようなパッケージのお菓子もあり、見えないと間違えてしまう危険性もあるかもしれません。わからないものを、見えない状態で食べることは、不安や恐怖に繋がります。まるでブラックボックスに手を入れているようなイメージです。

濱ノ上:ハッピーターンのパウダーは昔より美味しくなっているような気がします。

Haruna:いつもより嗅覚が敏感になって、舌触りに意識がいきますね。

濱ノ上:逆に見た目に左右されないので、見た目の食わず嫌いがないんです。虫とかも意外といけますよ(笑) 実際にハッピーターンの粉はリニューアルされており、そこに気づかれたことに驚きました。視覚情報がない分、先入観なく味に集中できるとのこと。普段はあまり意識しない食感の面白さや、奥深い風味にも気づけるのかもしれません。視覚情報は味覚に大きく影響を与えます。店頭に並ぶパッケージは「いかに美味しさや魅力を伝えるか」デザインに工夫を凝らし、最近では「映え」を重視して商品を選ぶ人も多いです。しかし、見えない・見えにくい生活を送る方々は、見た目だけで判断せず、本質そのものに向き合っていることのかもしれませんね。

 

視覚障害について理解を深める

視覚障害リードユーザーのお二人に、普段の暮らしについて質問していきました。

- 工藤さんは大学で声楽とピアノを専攻されていますが、どのように音楽を楽しまれているのですか?

工藤:音楽はメロディーがいいなと思ったやつとか、カッコイイ曲が好きです。最近も好きなアーティストのライブに行きました!

Haruna:歌声が顔や視覚情報でカバーされることってありますよね。本当に心揺さぶる歌声を判断できそう。邪念がないですよね。

加来:本質的な部分と常に向き合って判断されてるって凄く思いました!

- 視覚障害者の方々は普段、嗅覚を頼りにすることはあるのでしょうか?

工藤:例えば、クロワッサンの匂いがすると『あ、もうすぐ駅だ』って判断したいりします。歯医者、病院、花屋、コンビニも匂いでわかります!

ー「この場所が匂いで分かったら良いな」と思う場所はありますか?

濱ノ上:電車に乗ってる時に匂いで駅が分かったら便利ですね。車内でアナウンスが聞こえない時もあるので。でも、新宿、渋谷の匂いの違いはわからないです…

工藤:テーマパークは、ポップコーンの匂いや音楽でどこにいるか分かります!

日常生活ではそこまで意識しない香りですが、視覚障害者の視点で見直すとアイデアのタネがたくさん落ちているようでした。

 

香りを言葉で表現すると?

視覚障害リードユーザーのお二人に香りの付いたチップを渡していき、それぞの匂いを言葉で表現してもらいました。

ー この香りはどうでしょうか?

工藤:お花の匂い!この入浴剤を持っています。華やかな印象です。

Haruna:これはローズ、薔薇の香りです。

濱ノ上:深く嗅ぎ過ぎると苦いです。奥に苦味がある、青臭いような…

Haruna:凄い! 匂いの奥を感じられる人に初めて出会いました。実はローズは赤いのに青臭さもあるんです。

ー 最後の香りを渡します

工藤:うっ!私は苦手です…

濱ノ上:甘いんだけど、鼻に刺さるような感じはなくて。不思議だな…

ー これはカシスの香りでした。お酒を飲まれる方は、リキュールのカシスを連想する方も多いです。

工藤:手前が臭く、奥が甘いです。

加来:立体で匂いを捉えてますね。

 

対話から香りの可能性に気づく

最後に、ワークショップを通して感じたことや気になったことなどを、対話していきました。

Haruna:見える人と比べて、匂いに対する反応がすっごく早かったです! 表面的に香りを嗅ぎがちなんですけれど、見える人は手前とか奥とか誰も言わないんです。普段からちゃんと本質と向き合って見てるんだなぁと…

濱ノ上:匂いって構成要素があって複合的な物なんだなって。だから分解して考えてみました。あと、自分は味に紐付けてる部分が結構あるかもしれないです。

工藤:私は情景かなあ、お風呂、青空、明るい昼間、アトラクション内とか…

Haruna:香りの研究で、どういう組み合わせでどういう配合にしようかと考えていたので、ハッとしちゃいました。これ、面白い!

加来:香りも言葉も、正解や不正解がないので全ての人がフラットにいられる世界なんですよね。こんな風に見えない人と見える人が一緒に何かをやったらどうなるのか? 凄く興味を持ちました。

タキザワ: 「香りカルタ」とかあっても面白そうですね。可能性が広がります!

Haruna:もし失礼な質問をしていたらすみません…興味があって色々聞いちゃって…

工藤:むしろ気を遣って何も聞かれない方が傷つくかもしれません。どんどん色々聞いて欲しいです!

 

 


 

これまでは見える人だけで行っていた「香りと言葉のワークショップ」を、視覚障害リードユーザーに体験してもらうことで、さまざまな気づきがありました。ワークショップで何度も出てきた「本質」という言葉。味や匂い、音などの見えない情報は視覚情報で補う必要がありますが、見えない人々にとってはその情報を知る手段がありません。しかしその代わりに、より深い本質が見えているかのようでした。
一方、見えない方々は限られた情報の中で食事や香りを楽しんでいますが、情報の伝え方・感じ方はこれからまだまだデザインの余地があると感じました。香りから生まれる視覚障害者からの言葉によって、興味深い気づきが沢山生まれたワークショップでした。

 

文:PLAYWORKS Inc. インターン 藤井香菜子

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