REPORT|インクルーシブデザイン体験ワークショップ:聴覚障害者との共創

インクルーシブデザイン体験ワークショップ 聴覚障害者との共創

PLAYWORKS は障害当事者との対話から新たな価値を共創する「インクルーシブデザイン」を通じた、新規事業開発・サービスデザインを行なっています。今回は2021年4月28日に開催された「インクルーシブデザイン体験ワークショップ:聴覚障害との共創」の体験レポートをお届けします!

インクルーシブデザイン体験ワークショップ 聴覚障害者との共創

 

障害当事者との対話から、新たな価値を共創する。

今回は「聴覚障害者との対話から、新たな価値を共創する」をテーマに、リードユーザーである聴覚障害者 3名を含めた計15名で、3時間のオンラインワークショップを行いました。

 

プログラム

  • 聴覚障害者との共創事例の紹介
  • 聴覚障害者・グラフィッカーの紹介
  • 「UDトーク」設定・体験
  • MUTE WORK:チャット・筆談で自己紹介
  • MUTE WORK:絵しりとり・ジェスチャーしりとり
  • 対話:気付きの共有・聴覚障害者への質問
  • ブレスト:障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいコト
  • プレゼンテーション
  • 振り返り

 

 

聴覚障害者との共創事例の紹介

はじめに PLAYWORKS タキザワさんより、聴覚障害者との共創ワークショップ や、そこから生まれた WriteWith 顔が見える筆談アプリ などの事例紹介がありました。その後、リードユーザーである聴覚障害者とグラフィッカーの紹介が行われました。聴覚障害者はウエマツさん、ワタベさん、ヨシオカさんです。

 

 

「UDトーク」の設定と体験

ワークショップでは聴覚障害者への情報保障として、スマホアプリ UDトーク を使用しました。スマホに向かって話すと音声を認識し、話した内容が文章として画面に表示されます。そのため、耳が聴こえない人でも目で発話を理解する手助けになります。 聴覚障害者ごとに3つのグループに分かれ、それぞれ UDトーク を設定して実際に体験してみました。
 
 

MUTE WORK:チャットで自己紹介

MUTE WORK では全員がマイクをOFFにして様々なワークをおこないました。最初はZoomの「チャット」を使用して自己紹介を行うことに。テーマは「名前」「仕事」「ワークショップに期待している事」です。

スライドにチャットで自己紹介しようと書かれている。

 

聴覚障害者のウエマツさんはデフサッカー(聴覚障害者のサッカー)の日本代表監督を務め、デフリンピック(聴覚障害者のオリンピック)や世界大会に向けて選手に指導されているそうです。私自身「デフサッカー」や「デフリンピック」という言葉は初めて聞きました。パラリンピックとはまた別に聴覚障害者のオリンピックがあるんですね。以前にも聴覚障害者とのワークショップに参加しましたが、普段接することがない世界の話を聞くことができ、毎回新鮮な気持ちです。

 

 

MUTE WORK:筆談で自己紹介

続いて「筆談」での自己紹介です。テーマは「最近、ハマっているモノ」。各々が用意した紙とペンでハマっているモノを書き、紹介していきました。

 

聴覚障害者のヨシオカさんは、人のいないところで釣りをするのにハマっているそう。「釣り歴はどれくらい?」「好きな魚は?」など、筆談で質問がされました。私の場合は筆談(というか紙とペンを渡された場合)だと、文章だけでなくイラストも入れたくなるところですが、文章だけで自己紹介をされている方もいて、改めて人それぞれなのだなと気付かされました。

 

 

MUTE WORK:絵しりとり

だんだんハードルが上がっていきます。次は、絵でしりとりを進めていく「絵しりとり」です。

 

「絵しりとり」なんて簡単じゃん、と思われる方もいるかもしれませんが、これが意外と難しい… 何故ならば、順番通りに進めなければならないからです。苗字の50音順と指示がありますが、誰から描き始めるのか? 次は誰か? など普段は何も考えずに進めていたことも、音がない環境では常に周りを見て状況を確認していないと難しくなります。そんな中、ワタベさんのグループではメンバーの名前カードを作り、名前カードを画面越しに見せながらコミュニケーションをしていました。ちょっとした工夫で、ぐんと分かりやすくなりますね。

 

 

MUTE WORK:ジェスチャーしりとり

最後は、「ジェスチャー」でのしりとりです。順番は「絵しりとり」の逆になります(苗字の50音が遅い人から)。

 

音声がない中、画面に1人でジェスチャーする様子が映し出されるシュールな光景… そして、ジェスチャーで正しく伝えるのって難しい。各自1回までパスができましたが、パスをしたつもりがチームが伝わっていなかったり。絵しりとりよりも難易度が高かったようで、途中で停滞しているグループもありました。

「絵しりとり」「ジェスチャーしりとり」ともに、終了後に各グループでいくつ正しく答えられたかを発表しました。今まで開催したワークショップの中で、最も回答数が多い結果となりました。チームワークの成果ですね!

 

 

気付きの共有・聴覚障害者への質問

ここまでのワークを振り返り、感じたことや気付きをグループで共有しました。

ウエマツさんに対して「しりとりだけではなく、間をつなぐメッセージも上手だと感じた」「手話の手の動きがしなやかで美しい」という声がありました。ウエマツさんとしては、間をつなぐメッセージは当たり前にやっていて、自然に手が動いてサインを出していたそうです。また、グラフィッカーのピロコさんは「しりとりの途中でメンバーが増えて混乱した」とのことでした。例えば災害時など、音のない環境で不測の事態に対応することの難しさを感じたようでした。

 

気付きを共有した後に、健聴者から聴覚障害者へ質問をする時間が設けられました。

「補聴器でどれだけ聴こえ方が変わるのか?」という質問に対して、「音は拾えるけど何を話しているかは分からない」「左側は全然聴こえないので、右側から声をかけてもらう」、さらには「補聴器がないと会話が成り立たなかったり、人が話していることにも気付けない」そうです。聴こえ方は人それぞれとのことです。

 

 

障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいコト

最後は「障害が理由で諦めているけど本当はチャレンジしたいコト」をテーマにチームを結成。「UDトーク」「グラフィックレコーディング」を活用しながら、アイデアを考案しました。

 

 

プレゼンテーション
 

ウエマツさん:Jリーグの監督になる!

ウエマツさんはデフサッカーの日本代表監督をされています。そして、現在進行形の目標として「Jリーグの監督になる!」というお題をいただきました。はじめに「外国人監督のように隣に手話通訳がいたらどうか?」という意見が挙がりました。しかし、手話でサッカーの専門的な話題を扱うには、サッカーを理解した上で最適な通訳をする必要があるそうです。現状、サッカー協会で手話をできる人は少なく、新しい言葉が生まれた際には、新たに手話を作る必要もあります。

手話通訳を介しても、結局は選手の言葉の空気感を汲み取る必要があることから、「健聴者の選手が手話を覚えたらどうか?」というアイデアが出ました。これは周囲が騒がしくても選手同士で意思疎通ができたり、相手に戦術を読まれないメリットもあるのではないか?という意見が出ました。また、「デフサッカーのチームでJリーグに挑戦すればいいのでは?」という、Jリーグ自体をインクルーシブなリーグにしていくという視点の意見も出ました。

 

ワタベさん:移動販売の焼き芋を買いたい!

ワタベさんは、家の近くを救急車や移動販売車などの「音」の鳴る車が通った際、その存在に気付けないことに困っていました。耳が聴こえなくても、移動販売車が近くに来た時に気付くことができれば、焼き芋を買うことができます。

そこで、音の大きさや周波数、時間変化を視覚化して目で見て分かるようにするアイデアや、焼き芋の移動販売車特有の「石焼き芋」というワードに反応して石焼き芋のマークが現れる、匂い・見た目・煙など五感で楽しめる「焼き芋形スマートスピーカー」など、聞いているだけで楽しくなってくるようなアイデアがたくさん生まれました。他には、アプリで移動販売車を呼んだり、焼き芋屋さんが来る時間を固定するというより現実的(?)なアイデアも出ました。

 

ヨシオカさん:英語を話せるようになりたい!

ヨシオカさんは仕事で海外の人と関わる機会があり、その際に「チャットではなく英語でコミュニケーションしたい」とのことでした。チャットだと表情や声のトーンが分からないが、声であれば感情が伝わり仕事も上手くいくのではないか、と考えているそうです。まず、ヨシオカさんが考える英語を話す上で難しい部分について聞いてみました。すると、英会話スクールに通ったことはあるが、日本語とは違い普通に話すと早口になり、何と言っているのか分からずに発音できない、という経験を教えてくれました。

そこで「UDトークの翻訳機能を使ったらどうか?」という意見が出ました。これについては、結局のところチャットと変わらないため、やはり相手の顔を見ながら話したいとのことでした。また、「使う言葉を簡単な単語に限り、それ以外は文字でコミュニケーションをとる」という少しづつ話せる言葉を増やす、ゆっくりで短い単語で伝わる新たな言語を作ってみるという意見も出ました。

 

 

振り返り

最後に、参加者とリードユーザーである聴覚障害者の感想を共有しました。

ワタベさんからは「はじめはみんな顔が怖かったけど、だんだん笑顔になってよかった」「焼き芋屋のアイデアをぜひ実現して欲しい」。ウエマツさんからは「日本語・手話それぞれの良さがある」「台湾の参加者が、台湾の手話ではなく日本手話を勉強されており、色んな人がいていいよね!と嬉しくなった」。ヨシオカさんからは「自分がチャレンジしたい英語を話すことについて、一生懸命考えてくれて嬉しかった」とコメントいただきました。

 

 

インクルーシブデザイン体験ワークショップ 聴覚障害者との共創に参加して

聴覚障害者とのオンラインワークショップに参加するのは2回目でしたが、今回も新たな発見がありました。「移動販売車の石焼き芋をどうやって買うか?」についてのブレストでは、障害の有無に関係なくみんなが面白がりながら解決に向けたアイデアを自由に発想していたのが印象的でした。ここから新たなアイデアが実装されたら嬉しいな、と思います。

 

 

文:PLAYWORKS.Inc インターン 鈴木 葵

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